各紙が強い危機意識
4月27日付東京「日銀の金融政策/円安への対応手ぬるい」、5月1日付読売「進む円安/投機的な動きは容認できぬ」、2日付産経「円安の進行/過度の変動に警戒解けぬ」、3日付日経「米国発の円安への対応は中長期の視点で」、6日付本紙「為替介入/円安阻止の努力を評価する」――。
円安が進む最近の為替相場を巡る各紙社説の見出しである(8日までに朝日、毎日はなし)。
掲載に10日の開きがあり、この間、政府・日銀が実施したとみられる2度の覆面介入や米国の金融政策決定会合などがあり、各紙が取り上げた内容にも違いはあったが、それでも特徴的だったのは、大方の新聞が現在の円安に強い危機意識を抱いているのに対し、日経が見出しのように、中長期の視点で「円安のメリットを最大限に生かす経済の将来像を描き、市場や国民と共有する取り組みを求めたい」とした点である。
日経の「円安メリット」活用論については、22年9月8日付小欄でも、当時、24年ぶりの円安水準だった1ドル=140円台になった際に扱ったが、今回の円安水準でも基本的には同様だった。
もちろん、今回はそれより約15円安い円安水準ということもあり、円安の影響について「円安はグローバル企業の収益を押し上げる半面、物価を超える所得増の実現を遅らせ、個人消費の停滞が長引く懸念を伴う」と指摘し、影響を多面的に分析し、政策運営に理解を得ようとする努力が重要だとした。
文末でも「過度な円安が日本経済への復活の流れを止めないよう」との表現はあるが、それでも「短期の対応だけではなく、中長期の課題を整理し、着実に対策を打ちたい」と指摘して社説を結んでいる。
企業想定より20円安
日経がこう指摘するのも分からないではない。同紙も指摘するように、「円安・ドル高の根底には米国の利下げ観測の後退があり、日本側の対応には限界がある」からで、「円安の背景に米国のしつこい物価高がある以上、根本的な解決策にはならない。幅広い視野で対応を練る必要がある」というわけである。
介入については一般論として「相場の無秩序な動きに対抗する手段として、場合によっては選択肢になる」と認めるものの、今回の覆面介入に言及する中で、「急激な相場変動は企業の事業計画に悪影響を及ぼす」とした。
ただ、企業の事業計画への悪影響を挙げるならば、3月の日銀全国企業短期経済観測調査(短観)では全規模全産業の24年度想定為替レートが1ドル=141円42銭であり、最初の覆面介入前の160円から約20円も安くなっているから、今回の介入は企業の想定レートに近づける懸命の努力とも受け取れるが、どうだろうか。
介入を実施せず、円安進行を放置した場合、食料品やガソリンなどの値上りが再加速し、低迷する消費が腰折れしかねない。企業にも一段の円安進行を懸念する声が強い。現状、同紙が説く「円安のメリットを最大限に生かす経済の将来像を描」く余裕がどれほどあるだろうか。
早急な円安是正必要
同紙社説掲載日の3日に発表された4月の米雇用統計では、景気動向を敏感に反映する非農業部門の就業者数が市場予想を下回り、失業率は予想を上回ったことから、米国の利下げ期待が再燃。介入がなくても、一時151円台後半まで円相場は上昇した。
米国の雇用情勢は底堅さを保ってはいるものの、勢いは鈍化しており、日経が指摘した「米国の利下げ観測の後退」は、変わらない所与の条件ではないということ。本紙は151円への円高を「運も味方した」としたが、米景気の動向によっては、直近、じりじりと円安に推移するものの、今回の介入が円安反転の起点になるかもしれない。
ともかく、他紙がそろって懸念するように、現在の円安水準は早急に是正する必要があるだろう。(床井明男)