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イスラエルとの関係改善で恩恵を受けるアラブ諸国の姿伝える米誌

2024年4月22日(月)、ガザ地区南部のラファの町でイスラエルの空爆を受け、破壊されたテントから所持品を探すパレスチナ人(UPI)
2024年4月22日(月)、ガザ地区南部のラファの町でイスラエルの空爆を受け、破壊されたテントから所持品を探すパレスチナ人(UPI)

大義より実益を優先

イランによるイスラエルへの報復攻撃に対してヨルダンが迎撃を行い、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)までもが協力したことが波紋を呼んだ。ガザ地区での紛争を受けて、アラブ諸国からのイスラエル感情が悪化している時でもあり、イスラエルにとって「サプライズ」(イスラエルのニュースサイト「タイムズ・オブ・イスラエル」)だったようだが、そこにはやむにやまれぬ事情があるようだ。

イスラエル紙ハーレツの経済記者・コラムニストのデービッド・ローゼンバーグ氏は米誌フォーリン・ポリシー(電子版)への寄稿で、「地域のアラブ諸国は怒っているものの、(イスラエルとの関係を断ち切るほどの)余裕はない」と指摘した。そこからはイスラエルとの関係改善で恩恵を受けているアラブ諸国の姿が見えてくる。特に、サウジ、UAEは2020年のイスラエルとの国交樹立による恩恵を受けており、大義より実益を取った格好だ。

アラブ諸国は歴史的にイスラエルの宿敵。イスラエルが独立を勝ち取った第1次中東戦争以来、4度にわたって戦火を交えてきた。その後、エジプト、ヨルダンは和解したものの、しょせんは水と油だ。

だが両国とも、エネルギー分野などで、イスラエルへの依存を強めてきた。

ローゼンバーグ氏によると、その中でも最もイスラエルへの依存が強いのはヨルダンだという。イスラエルは海水の淡水化技術に優れ、ヨルダンに大量の水を輸出している。さらに、エネルギーに関しても、「発電や化学産業向けにイスラエルからの天然ガスに依存している」。

エジプトも近年、「国内のガス田の劣化」から、イスラエルからのガス輸入が欠かせない。ガザ紛争発生後にイスラエルが輸出を一時的に削減した際には、「輪番停電を2倍の1日2時間にし、液化天然ガスを輸入せざるを得なくなった」という。

経済重視の湾岸諸国

一方のペルシャ湾岸諸国は事情が違う。課題は貿易と投資だ。ローゼンバーグ氏によると、UAEは「世界的な輸送拠点としての役割を強化し、イスラエルからの技術を生かして自国のハイテク産業を育成し、気候変動の脅威への対応で協力する」ことを目指しているという。UAEはまた、すでにイスラエルからの主要兵器輸出先となっている。20年の「アブラハム合意」で国交を結ぶ以前はゼロだったイスラエル製兵器の輸入額は「22年に29億㌦に達した」という。

ローゼンバーグ氏は、「バーレーン、カタールもUAEと同様、経済重視」であり、「中東を再構築し、慢性的に戦争と急進的な政治が支配する地から、経済開発に重点を置く」ことを目指していると指摘する。

サウジもムハンマド皇太子の「ビジョン2030」の下で「経済の脱石油、技術、金融、観光、エンターテインメントの拠点」となることを目指している。

これら湾岸諸国にとって、アブラハム合意を受けたイスラエルとの雪解けはすでに不可欠であり、ローゼンバーグ氏は「10年前には考えられなかった」と指摘する。

また、ガザ紛争、イスラエル・イラン間の緊張は、イスラエル・サウジの正常化交渉にも影響を及ぼしている。米CNNは24日、「バイデン氏のイスラエル・サウジ正常化交渉にトランプ氏の影」と報じた。

グラム米上院議員(共和)が先月、サウジを訪問し、ムハンマド氏と面会、CNNは、「バイデン政権が1年以上にわたって取り組んできた、サウジとイスラエルとの正常化交渉について協議する」ためだったと報じている。CNNによると、両氏の会談中にトランプ前大統領に電話し5分ほど話し合ったという。

中東の安定化に貢献

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは19日、バイデン米大統領が、「サウジアラビアがイスラエルと国交を正常化するのと引き換えに」イスラエルのネタニヤフ首相にパレスチナ国家樹立を受け入れさせる計画であることを報じた。イスラエル・アラブの和解は、イランの孤立化とともに、中東の安定化に貢献するはずだ。(本田隆文)

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