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現状は日中の「共同管理」 尖閣諸島は守れるか

沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島=2010年9月(海上自衛隊P3C哨戒機から撮影)

反撃覚悟で主権明示が問われる

「世界日報」は「国境警報」と銘打ち、中国公船がわが国の領海や接続水域に侵入したことを読者に知らせている。公船と言っても、中国海警は人民解放軍の指揮下にある「武装艦艇」だ。日本の海上保安庁のような海岸警備隊ではない。

近年、中国公船によるわが国の領海や接続水域への侵入が頻繁になっている。国境警報を読み続けてもらえれば、中国による尖閣奪取の戦略が巧妙に、そして着実に進んでいる現実を知ってもらえるはずだ。

だが、われわれが警鐘を鳴らし続けても、政府、政治家そして国民の危機意識がいまひとつ乏しいのが現実だろう。それは単に尖閣諸島への関心の低さだけでなく、日本人の国防意識の希薄さをも表している、と言わざるを得ない。

月刊「正論」5月号に、「尖閣諸島に迫る危機」が載っている。「中国の海洋軍事戦略の分野で有数の権威」のトシ・ヨシハラ氏に、麗澤大学特別教授の古森義久氏(産経新聞ワシトン駐在客員特派員)がインタビューしたもので、一読すると、尖閣諸島が危機的状況にあることを思い知らされる。

ヨシハラ氏は1972年、台湾生まれで、米海軍大学など、米国の多数の有名大学で教えた経歴を持つ。近著に『毛沢東の兵、海へ行く―島嶼作戦と中国海軍創設の歩み』(扶桑社)がある。古森氏によると、中国公船による日本領海や接続水域侵入が頻繁になっていることに警鐘を鳴らし、現状のままでは、尖閣諸島に対する日本の施政権も危うくなると警告してきた識者だ。

まず古森氏は、尖閣諸島を巡る現状をどのように見ているか、を聞いている。それに対して、ヨシハラ氏は「中国は、いま現在も尖閣諸島を自国領土の『釣魚島』だと誇示する実効措置を重ね、日本側の年来の主張を後退させることに成果をあげています。日本側は苦しい立場にあります」と、尖閣奪取に向けた中国の戦略が成功しつつあることを説明する。

「ヨシハラ」という名前に、日本人は親近感を覚えるだろうが、尖閣諸島問題では第三者だ。同諸島が歴史的にも現実にも日本領土であることに「疑問の余地がない」と断言するヨシハラ氏だが、「いまの時点では日本側は言葉でその主張を繰り返しているだけという印象」だ、と日本側の弱腰を指摘する。

もちろん、中国公船が日本の領海に侵入した場合、日本側が何もしていないわけではない。海上保安庁の船が中国公船に「発声」で退去を求めるという「行動」を取っている。しかし、「それは言葉だけの主張」にすぎないというのである。

今月13日現在、尖閣諸島沖での中国公船の領海侵入は10件を数える。古森氏によると、昨年1年間では、中国艦艇による日本領海侵入は41件。領海だけでなく接続水域も加えれば、中国艦船の侵入はもはや恒常化しているのだ。

これに対して、日本側が言葉で退去を求めるだけの対応を取っているうちに、中国は、自国が尖閣水域を「パトロール」しているのは「自国領」だからだ、と対外的に広報している。つまり、日本は「情報戦」で負けてしまっているのである。

しかも、この現状は第三者のヨシハラ氏から見ると、尖閣諸島はすでに日中の「共同管理」になっており、「この状況は日本にとってきわめて不利」と指摘する。尖閣諸島はもはや日中の共同管理だ、と第三者から指摘されればハッとするが、それだけでなく、これは日本に非常に不利な状況だという。

なぜかと言えば、東シナ海における中国海警の艦艇の増加、増強など尖閣諸島に対する攻勢の「資産」を増やして、日本側への圧力はかつてよりも格段に増えているからだ。

先に、中国公船が領海に侵入した場合、海上保安庁の船が発声で退去を求めていると述べた。しかし、もし中国の海上民兵が尖閣に上陸した場合、発声だけの曖昧な姿勢では済まなくなる。

海上民兵の背後には、海警に加え中国海軍が控える。その強大な戦闘能力を前に、日本側が中国との武力衝突を覚悟してまでも、海上民兵を強制排除する意思を持っているのか。尖閣諸島が「日本領土だ」と言葉だけで主張するのは、日本には、もはや中国海軍と戦う覚悟と実力を持てなくなっているからではないのか。そんな疑問さえ持ってしまうが、ヨシハラ氏は、「中国側の反発、反撃をも覚悟して主権や施政権を明示する決意があるのか」、日本はそんな基本的なことが問われる時期にきているという。

ヨシハラ氏に指摘されるまでもなく、中国が海上民兵を尖閣諸島に上陸させるというシナリオは当然、想定しておくべき事態だろう。しかし、古森氏は、尖閣有事という危機のシナリオは国会でもほとんど提起されないと指摘する。その主な理由は「尖閣諸島の領有権紛争は存在しない」というのが、日本政府の公式の立場だからだ。

この日本の立場について、ヨシハラ氏は理解を示しながらも、尖閣奪取のための中国の動きが活発化した現状では「危険」になっていると訴える。なぜなら、尖閣諸島が日本の固有の領土であるという「日本側の主張が内外に発信されない」上、「中国の実効支配的な侵入行動だけが広く知られて」しまうからだ。

ウクライナ戦争を見ても分かるように、国際紛争では、当事者の情報発信が勝利のカギとなる。ただ、その前に国内において、ヨシハラ氏が指摘するように、尖閣諸島が事実上、日中の共同支配になりつつある現実を知らせ、政治家や国民の危機意識を高めるための情報発信が欠かせない。しかし、尖閣有事については、領有権紛争を否定する日本政府の姿勢があだとなってか、メディアの関心が低いのが現状だ。

さらに悪いことに、米国の政治状況がある。バイデン政権のことだ。中国への「遠慮」がある。ヨシハラ氏は、中国による尖閣侵略を「大々的に宣伝しないよう示唆する傾向」も感じられるという。

この状況について、ヨシハラ氏は「いまの尖閣情勢は中国側が日本側の首に縄をつけて、緩急自在に締めることができる。そんな比喩さえ浮かんできます」と、日本人としては戦慄(せんりつ)を覚える言葉を投げ掛ける。古森氏も「四面楚歌(そか)という言葉まで連想されます」と嘆くが、これが尖閣諸島を取り巻く現実だとして、直視するしかない。

そうしながらも、尖閣諸島を守るための手だてはないものかと考えるのだが、「現状で日本に必要なのは、中国側に大々的な軍事的反撃を起こさせない、ぎりぎりの範囲内で中国の尖閣実効支配に近い現状を少しずつ減らしていく、削っていくサラミ戦術」だとヨシハラ氏は述べる。

具体的には、かつて米国の施政権下で、米軍の射撃訓練場に使われた歴史的な事実から、自衛隊と米軍合同で射撃訓練を行う案。また、灯台の修理名目で、臨時に要員を送り込む案を挙げる。しかしながら、今の日本政府に、重大な覚悟を持ってこうした案を実行に移す腹があるとは思えない。かといって、「現状の維持は日本側にやがて決定的に不利な結果をもたらす」(ヨシハラ氏)。やはり尖閣諸島は四面楚歌なのか。それでも「国境警報」を鳴らし続けるしかない。

(森田 清策)

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