控えめな支持表明に
経済産業省がこのほど航空機産業戦略の改定案を示し、次世代の国産旅客機について、2035年以降の事業化を官民連携で目指すとした工程表を盛り込んだ。
三菱重工業が撤退した国産小型ジェット旅客機「スペースジェット」事業を教訓とした上で、今後10年で官民で約4兆円規模の投資を行い、国産旅客機の開発に改めて挑戦するという。
これに対し、これまでに産経、日経、毎日の3紙が社説で論評を掲載した。今回はこれらを見ていきたい。
まず、3紙の見出しは次の通り。7日付産経「失敗教訓に新事業育成を」、8日付日経「国産旅客機開発に欠かせぬ企業の野心」、9日付毎日「失敗検証せず進む危うさ」――。
経産省の新戦略とはいえ、さすがに、三菱重が1兆円超の事業費を投入し、政府も500億円の支援をしたスペースジェット(旧MRJ)が昨年2月に事業撤退となったばかりだけに、掲げた見出しの通り、前向きな2紙も控えめな支持表明となった感じである。
産経は、「それ(事業撤退)までに蓄積した知見や技術は多いとされ、次世代旅客機の開発に生かす。こうした国の戦略は妥当だ」と評価。
また、航空機は部品点数が300万点といわれ、関連産業の裾野も広いだけに、「国内に航空機産業の強靭(きょうじん)なサプライチェーン(供給網)を築ければ、戦闘機など防衛産業の強化にもつながり、安全保障上も大きな意味を持つ。新たな成長産業に育てたい」と開発に取り組み意義と期待を記す。その通りである。
意義大きいが問題も
それだけに、3紙がいずれも指摘するように、「実行にあたってはスペースジェットの教訓を生かさなければならない」(産経など)ということである。
日経も「国産機は産業の活性化につながり、実現を目指す意義が大きいことに異論はない」と同意するが、「問題は、現実的に担い手がいるのかどうかだろう」と指摘する。これも尤(もっと)もな指摘である。
「航空機産業を育成するには十年単位の長期視点と、関連産業をまとめる強力なリーダーシップが不可欠だ」(日経)からで、「いくら政府が青写真を描いても、実行主体となる企業のアニマルスピリッツ(野心)がなければ絵に描いた餅に過ぎない」(同紙)というわけである。
事業化できなかった三菱重はじめ、川崎重工業やSUBARU、IHIなど関連する大企業も現実的には巨大なリスクは取りにくいのではないか。これらの企業が技術や資金を持ち合う安易な「日の丸連合」方式も、リーダーシップの所在が不明瞭になってしまい、それは半世紀前に国産旅客機「YS―11」の失敗ですでに学んだことだ――。
日経はこう指摘しながらも、「とはいえ、突破口がないわけではない」と強調し、「まず、国産機といえども日本企業だけで完結させる必要はない」「先行する欧米企業と協力関係を築いて知見を補うような柔軟な発想があってもいいだろう」と提案する。
欧米は巨額の補助金
同時に、巨額の補助金が飛び交う欧米勢に対抗するには、「政府にも腰を据えた取り組みが求められる」と同紙。
経産省改定案では、官民で4兆円規模の投資を行うとしており、GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債を中心に財源を賄う案が浮上している。日経は「国民が十分に納得できるような形を示してほしい」と注文を付けたが、同感である。
同紙は「官民による活発な議論を通じて、野心ある挑戦者の登場を待ちたい」との文で社説を結んだが、率直な偽らざる気持ちだろう。
これに対して、毎日は「失敗の教訓を十分に学ばないまま、官製プロジェクトを推し進めようとする姿勢に疑念が拭えない」と批判するが、先の2紙の指摘を踏まえると、あまりに後ろ向き過ぎないだろうか。
(床井明男)