投資延期や開発中止
つい最近まで世界的にゼロカーボン時代の旗手として持ち上げられていたEV(電気自動車)の販売が伸び悩んでいる。EVの導入に積極的だった欧州や米国では昨年の各メーカーの販売台数は当初の計画には至らず、とりわけ米国に至ってはEVメーカーの投資延期や開発中止が発表されるなど暗いニュースが続く。「大失速」と陰口まで叩(たた)かれるEVだが、週刊エコノミスト(4月9日号)がこれをテーマに取り上げた。その名も「EV失速の真相」。ここにきてEV自動車がなぜ失速したのか、その背景を探っている。
同誌はまず、米国のEVメーカーの販売状況を説明する。例えば大手自動車メーカーの一つであるフォードについて言えば、23年の販売台数は、バッテリーEV(BEV)とプラグインハイブリッド車(PHV)2車種合わせて6万4935台と年頭の販売計画の半分程度。今年に入ってからも1月は前年同月比11%減の4674台と減少傾向が続く。
また、もう一つの大手自動車メーカーのゼネラルモーターズ(GM)に至っては、当初昨年の販売計画が40万台としていたが、実際には約7万6000台にとどまってしまった。エコノミストは「(米国においては)伝統的な自動車メーカーが販売するEVが計画通り売れていない」(野辺継男名古屋大学客員教授)と指摘する。
さらにIT企業の雄とも言えるアップル社は10年前から年間10億㌦(約1500億円)をかけて自動運転機能を持つEV開発プロジェクトを進めてきたが、今年2月下旬に同プロジェクトの中止・断念を発表した。同社の従業員2000人が関わってきたとされるが、ここにきて自動運転技術の確立の難しさと近年の世界的なEV販売の伸びの不振が背景にあることは否めない。
テスラも減収減益へ
それでは、EVメーカーでは世界を牽引(けんいん)し、年率50%の伸びを続けると豪語していたあのテスラはどうか、と言えばテスラでさえも昨年度は38%の伸び。今年は17%ほどと見込まれ、減収減益は避けられない見通し。こうした傾向はヨーロッパでも同様で、昨年の欧州連合(EU)全体のEV販売台数は前年比37%増の154万台と伸びてはいるものの、4半期別に見るとEVの伸びが鈍化している。国際自動車工業会連合会の報告によれば、EUの昨年第4四半期の新車販売台数は前年比で5・5%増と2四半期連続で鈍化している。
こうした世界的なEV販売台数の急速な鈍化の要因として、エコノミストはEU各国の補助金の打ち切り、米国の補助金獲得のハードルの高さを挙げる。「欧州ではかつてBEVが市場を席巻していたスウェーデンやノルウェーで、昨年秋以降、相次いで補助金が撤廃された。ドイツでも予定を早めて昨年末までに補助金が打ち切りとなった。打ち切りは各国の苦しい財政状況が主要因で、補助金が打ち切りとなると即、販売が落ち込むというBEV販売の脆弱(ぜいじゃく)性が露呈された」(遠藤功治・SBI証券企業調査部長)と指摘、要はEVそのものの価格が高額なため、政府の補助金がなければ消費者は安易に手を出すことができないということなのである。
日本ではHVが好調
一方、EV競争に出遅れた感のある日本の自動車メーカーのハイブリッド車(HV)は好調で、とりわけトヨタ自動車や本田のHV販売は過去最高の売れ行きを示すという皮肉な現象が生まれている。
かつてトヨタ自動車の豊田章男会長が社長時代に、「現在、(英国は)BEVシフトの先導を務めていますが、『(近い将来EVのみの時代がくる)本当にそう思っています?』と聞きたい。クルマが正しくカーボンニュートラルを理解し、“共感の輪”がより広がってくれることを期待する。最後はユーザーであり世論が判断してくれるはずです」と語っていた。
同社は現在、EVに偏らず、HV生産も維持するという「マルチパスウエイ(全方位)戦略」を進めている。政府主導の無理な政策の実施は必ず破綻する。そういう意味では豊田会長には先見の明があったということなのだろう。
(湯朝 肇)