
スピード感ある対応
台湾で墓参の日とされる清明節の前日だった4月3日、東部の花蓮県などが最大震度6強を観測する揺れに襲われた。
地震災害では、住宅の崩壊と山間部の落石・土砂崩れが代表的だ。花蓮県沿岸部の道路で、落石で崩落した橋の代用として日本植民地時代の古い橋が6日から使われだしたというニュースには驚かされた。第一報は朝日デジタル(4月7日11時44分)で、共同、時事、読売などが後追い記事を書いた。
地震によって大きな被害が出た「太魯閣国立公園」は、台中から花蓮までの台湾横断旅行で一度、行ったことがある。400~500メートルを見上げるような急峻(きゅうしゅん)な峡谷で落石が起きれば、十字砲火のような被害は免れ難い状況は理解できる。
その「太魯閣国立公園」内で半世紀前に建設された橋が破壊され、隣接していた1世紀前の日本統治時代の橋を補強して片側通行を行い、台北に向かう最短ルートを確保することができたというニュースだ。
役目を半世紀前に終えていた「百年老橋」の再登板だった。
花蓮市では地震の3時間後に防災用テントを備えた避難所を開設するなどスピード感のある対応が称賛された。何より地震で傾いた被災マンションの解体に、翌日から取り組んだ迅速さには目を見張った。
この傾斜マンションのスピード解体をニュースにした産経の視点が光った。
「百年老橋」復活ニュースでは辣腕(らつわん)ぶりを発揮した朝日も、今回ばかりは駄文にすぎなかった。朝日など他紙がその事実をただ報道する一方で、産経9日付1面カタの記事「被災ビル 迅速に強制解体」では日本との違いにスポットライトを当てた。
危機意識に隔たり
同記事では、被災建物の倒壊リスクが高く危険な場合、所有者や占有者に通知することなく、当局が強制撤去できる建築法に基き、日を置かず粛々と解体作業に取り掛かった花蓮県行政当局の断固とした姿勢をまずはリポートした。
記事には当局担当者の「解体工事が始まってから住民から反発の声が上がっているのは知っている。だが、喪失財産よりも人命を優先するのは当然だ」とのコメントも引き出している。
記事によると、同マンションで貴重品が残っている部屋への立ち入りを求めた住民に対し、当局が許可を下すことはなかった。
その上で、わが国でも被災建物の二次被害を防ぐため、建物の強制撤去ができる災害対策基本法や民法は存在するものの、「現実には自治体が個人の財産権などに配慮するあまり、解体に慎重を期すケースが多い。日本と台湾はともに地震大国だが、危機意識には大きな隔たりがある」と総括した。
日本人の優しさはすぐれた国民性の一つだが、それが断固とした処置が取れない優柔不断につながれば、もっと悲惨な結果を招くこともある。同記事は、その教訓を台湾地震災害の現場からくみ取った。
常にリスク下の台湾
台湾と日本は同じ島国ながら、なぜこうも違うのだろうか。それは強権国家中国の威圧の下、常に危機リスクにさらされ続け、大局を見据えた上で迅速に対応しなければ取り返しのつかないことになりかねないという緊張感を伴った、台湾のダメージコントロール力の強さに起因するように思う。
なお、今回の地震報道では、ドローンが力を発揮した。最初に書いた「百年老橋」再登板のニュース写真は、地上写真では訳の分からない画(え)だが、ドローンで撮った上空からの写真は全体構造がはっきりと理解できる。
また、外国人救援隊として唯一、台湾に現地入りしたトルコの救援隊が携えていたのは無人機による捜索技術だった。
(池永達夫)