イスラエル全面支持路線の軌道修正を余儀なくされる独ショルツ政権

独に歴史的な負い目

ロシア軍がウクライナに侵攻した時、欧米諸国のほとんどが迅速にウクライナへ人道支援、武器供与を実施した。ドイツは紛争地への武器供与は禁止されているという理由から慎重な姿勢を堅持し、重武器を提供した他の欧州諸国とは違い、軍用ヘルメット5000個をキーウに供与すると発表し、欧米メディアから冷笑された。その後、ショルツ独政権はZeitenwende(時代の転換)を標榜(ひょうぼう)し、米国と歩調を合わせて、主力戦車「レオパルト2」など重兵器をウクライナに提供していったことは周知の通りだ。ウクライナ戦争が長期化するにつれて、キーウへの武器提供の声が高まり、ドイツに対しては現在、長距離巡航ミサイル「タウルス」の供与を求める声が出てきている。

一方、イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとの戦闘では、ドイツは最初からイスラエル支持を表明してきた。ハマスが昨年10月7日、イスラエル領土に侵入し、1200人以上を殺害するとともに、240人以上を人質にするというテロ事件が発生し、世界を震撼(しんかん)させた。ハマスの奇襲テロを受け、ドイツの反応は迅速だった。

ドイツはナチス政権時代、600万人のユダヤ人を大虐殺したこともあって、イスラエルに関連する問題ではほぼ無条件にイスラエルを支持してきた。「ドイツはイスラエルに歴史的負い目を感じている」と指摘する論調がある。

独週刊誌シュピーゲルはハマスの奇襲テロで現地ルポを報じた。ガザ戦闘の責任はハマス側にあるという点でドイツのメディアも明確なコンセンサスがあった。

国際的な孤立恐れる

ただ、イスラエル軍のガザ侵攻が開始され、ハマス関係者ばかりか、パレスチナ住民にも多くの犠牲が出てきたことを受け、バイデン米政権や欧州諸国はイスラエルに慎重な対応を求めてきた。イスラエルが国際社会から孤立化する気配が出てきた。ドイツのイスラエル無条件支持も揺れ出してきた。

国連安全保障理事会でもガザ戦闘の停止を求める声が出てきたが、米国はイスラエル政府の意向を支持し、ガザ戦闘の即時停戦に反対してきた。しかしバイデン政権も国際社会の圧力に抗し切れず、拒否権を行使せずに棄権に回ったことで、イスラエル軍のガザ最南部ラファへの軍事攻撃の停止を求める決議案が3月25日、採択された。

ショルツ独首相は17日、「ガザ最南部ラファの150万人もの命が脅かされることは受け入れられない」と、ラファ侵攻への反対姿勢を明確にした。パレスチナ側に3万2000人以上の死傷者が出てきた現在、イスラエル支持を堅持すれば、国際社会から孤立する危険性が出てきたため、イスラエル全面支持路線の軌道修正を余儀なくされたのだ。シュピーゲルは「ドイツとイスラエルの関係に亀裂か」と報じている。

真価問われる独外交

ショルツ連立政権が発足した2021年12月、その連立協定(178ページ)の「欧州と世界に対するドイツの責任」という項目では、「ドイツは欧州と世界で強力なプレーヤーである必要がある。ドイツの外交政策の強みを復活させる時がきた」と強調し、「私たちの国際政策は価値に基づいており、欧州に組み込まれ、志を同じくするパートナーと緊密に連携し、国際的なルール違反者に対して明確な態度を示す」と説明し、“ドイツ外交の復活”を宣言した。

その後、ウクライナ戦争、イスラエルとハマス紛争が勃発、欧州の盟主ドイツの外交の真価が問われる羽目となったわけだ。実際は第2次世界大戦時のナチス・ドイツ政権の負の遺産を引きずる外交政策から脱皮するという課題に直面してきた。

ウクライナ戦争は3年目に入った。ガザ戦争は依然、停戦への見通しはない。シュピーゲル(3月28日号)は安保理決議を受け、「ドイツはイスラエルに今後も武器を輸出できるか」を早速問い掛けている。ウクライナへのタウルス供与問題とともに、ショルツ政権の「ドイツ外交の復活」への課題は山積している。

(小川 敏)

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