豪州では政策も支配
「中国人を見たらスパイと思え」。そう忠告したのはトランプ氏だ。米大統領時代のオフレコ発言にそうある。世界中で中国スパイが徘徊(はいかい)しているから、あながち誇張と言えない。習近平主席が2015年に制定した「国家安全保障法」は国家安全局への国民の協力を義務付け、17年の「国家情報法」では諜報(ちょうほう)活動への支援も義務付けた。諜報機関は大手を振って国民を手足に使える。中国人はいやが応でも「スパイ」にされるのだ。
豪州では連邦政府、企業、主要政党、大学、メディアなどあらゆる有力機関に中国スパイが浸透し一時、政府の政策まで支配した。ボブ・カー元外相(12~13年在任)は中国系富豪から巨額寄付を受けて「北京ボブ」と呼ばれるほどの親中派に鞍(くら)替えし、元貿易相は中国企業の顧問となって巨利を得た。公共倫理学者クライブ・ハミルトン氏がその実態を暴き、問題化した(『目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画』飛鳥新社=18年発刊)。
そんな先例があるのに日本は無頓着で、中国にしてやられている。今年2月、日本国内の中国人を監視する中国の「海外警察」の元幹部だった中国人女性が自民党の松下新平参院議員の「外交顧問兼外交秘書」に収まっていたことが発覚した。中国人女性は長野県の風俗店を整体院と称し、新型コロナウイルス対策の持続化給付金100万円を詐取し書類送検されたが、松下氏側は「関係ない」と開き直っている(産経2月29日付)。
これを新聞はわずかに報じただけで、どんな情報が中国に流れ、工作されていたのか不問に付した。ちなみに週刊新潮が「『松下議員』を籠絡した“元美人秘書”の裏に『中国秘密警察』」とセンセーショナルに報じたが、これも後追いがない(当欄3月4日付・岩崎哲氏「お粗末な新潮の暴露記事、女性議員の不貞より重要な中国秘密警察」参照)。
再エネ策に疑念あり
そして次には中国ロゴ問題だ。内閣府の再生可能エネルギーに関するタスクフォース(TF=特別チーム)で共有された資料に中国の国営企業「国家電網公司」のロゴが入っていた。資料を作成したのは公益財団法人「自然エネルギー財団」の大林ミカ氏で、中国の再エネ計画をなぞって作成していた。TFは河野太郎規制改革担当相の肝煎りの組織で、大林氏は河野氏の推薦で委員になった。また河野氏が外相時代の18年に外務省に設置した「気候変動に関する有識者会合」のメンバーにも名を連ねている。
再エネ策には中国に操られている疑念がある。太陽光パネルは中国産が大半で、その多くがウイグル人の強制労働で生産されており、インフラ事業なのに外資規制がなく、中国系企業が各地でトラブルを起こしている(ジャーナリスト有本香氏らの指摘)。再エネを推進すればするほど中国を利し、日本のエネルギーが支配されてしまう仕組みだ。
中国の介入を矮小化
これにも新聞は鈍い。中国ロゴ問題が表面化したのは3月25日の参院予算委員会だが、報じたのは朝日と産経だけ。それも小さな扱い。同委で日本維新の会の音喜多駿氏は「国家の根幹にも関わるエネルギー政策分野に特定の国が影響を及ぼしうるとすれば、看過できない安全保障上の問題だ」と問題視したが、河野氏は「(ロゴに)気付かなかったのは、大変申し訳ない」と答えるのみで(朝日26日付)、中国の介入を単なるロゴ問題に矮小(わいしょう)化している。
これを毎日はスルーし(4月1日付現在)、読売は3月28日付で後追いしただけ。産経は27日付で続報し、ネット版で大林氏のTF辞任などを詳報。4月1日付主張で「中国の影響力工作を疑え」と、ようやく産経らしさを見せた。他紙は再エネ企業の広告漬けでモノが言えないとの説もある。
自民党執行部は政治資金問題で安倍派幹部の党追放を目論(もくろ)んでも「北京タロウ」や「北京シンペイ」にはお構いなしだ。「目に見えぬ侵略」に政府も新聞も籠絡されたか。
(増 記代司)