トップオピニオンメディアウォッチトランプ現象と自民の体たらくの共通点指摘も斬り込み不足の田中均氏

トランプ現象と自民の体たらくの共通点指摘も斬り込み不足の田中均氏

「左翼の凋落」が関係

世に理解できないことがある。トランプ氏の米大統領返り咲きの可能性と自民党の目も当てられない体たらくだ。一昔前だったら「絶対ダメ」なものが今は大手を振ってまかり通っている。そしてそれを戒める人物も正す勢力も出て来ず、大衆もそれを見過ごしていることだ。

昨年は日本大学の不祥事が世間を騒がせたが、1970年前後のように大学紛争になることもなく、デモ一つ起こらず、キャンパスは平穏だった。学生も社会も無関心ですらあった。このことが今の世間の風潮を象徴しているような気がする。

これらの現象を見ると、逆説的だが「左翼の凋落(ちょうらく)」が関係しているのではないかと思えてくる。野党や労組は世の不正を正す勢力たり得なくなった。逆に「もっと頑張れ」と言いたくなる。でないと保守言論界も張り合いがないではないか。

冗談はさておき、サンデー毎日(4月7日号)が「田中均が政治と外交『総点検』」の記事を載せた。トランプ氏と自民党について語り「明日の世界を展望、窮状打開のための日本の針路を示す」というものだ。

まず「もしトラ」について。これは「もしかしたらトランプが当選するかもしれない」のことだが、トランプ氏は共和党の大統領候補指名が確定した。なので今は「ほぼトラ」すなわち「ほぼトランプが当選するだろう」になっている。民主主義の宗主国であるアメリカで四つの件で起訴されている「刑事被告人が(略)再び大統領になる可能性が出てきた」わけだ。

支配層への不満表明

これについて同誌は「外交の玄人たちの理解をも超えるようだ」として「元外務審議官」で「対米関係の専門家として安保・政治・経済いずれのポストも経験した」田中氏に意見を求めた。

「田中氏によると、米国のトランプ現象と日本での自民党の体たらくには共通点がある」という。「いずれも長年国家を主導してきたエスタブリッシュメント(支配層)の驕(おご)り、既得権、そしてその政策の失敗に対する国民大衆からの溜(た)まりに溜まった不満、批判の表明だ」という。そして「トランプはその受け皿にすぎず、その背景にまで斬り込まないと見誤るという」ことだ。

田中氏は米国現地を回ってみて「米国社会にかつてないような深い分断が走っていること、そして、既成の政治勢力に対する凄(すさ)まじいまでの強い不信がある」と語っている。

富の偏在、貧富の格差、移民問題、何よりも価値観の揺らぎ、等々、不満が充満しているのだ。トランプ支持は前回の当選からこれら米国のごく普通の市民、もっと言えばキリスト教の信仰を持つ大衆が示した選択だった。

惜しむらくは、田中氏はこの伝統的保守的なキリスト教徒たちの空気を伝えていない。米国を長年見てきた田中氏に宗教的観点、キリスト教への理解がないとは考えられないが、日本では分かりにくい部分なので言及しなかったのだろう。しかし、これこそがトランプ現象を理解する肝である。これを抜かすから日本の報道では結局分からないことになるのだが。「斬り込み」が足りないと言わざるを得ない。

「メディアの力不足」

「日本の場合は、その不平不満はこの国が成長しないでどんどん落ちていくことへの不満だ」と田中氏は指摘し、「裏金問題」で露呈した「自民党の賞味期限切れ」について「メディアの報道姿勢に物足りなさを感じる」と述べている。メディアは「現象面の報道に終始し、今が大きな変革期にあるという時代認識や大局観のある分析が欠けている」と苦言を呈するが同感だ。

こうなると「左翼の凋落」とともに「メディアの力不足」が今の危機を招いているとも言える。政権党をしっかりさせるには健全で力のある野党と公平で大局観のあるメディアが必要だ。つまり今はまっとうな批判勢力がないということだ。野党とメディア、両者に共通しているのは表面的な批判と偏向姿勢である。これを修正しない限り「日本が本当に立ち直ることができる、多分最後の機会」(田中氏)を逸することになる。

(岩崎 哲)

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