トップオピニオンメディアウォッチ独紙誌に欧州独自の核抑止力論、安保政策の抜本的見直し迫られるEU

独紙誌に欧州独自の核抑止力論、安保政策の抜本的見直し迫られるEU

終了近づく米の保護

ドイツのジグマール・ガブリエル元外相は外相としての任期は1年余りと短かったが、退任後、世界の情勢や外交トピックで深い洞察のあるオピニオンを発表してきた。ガブリエル氏は外相時代、2018年2月17日、独南部バイエルン州のミュンヘンで開催された安全保障会議(MSC)で中国の習近平国家主席が推進する「一帯一路」構想に言及し、「民主主義、自由の精神とは一致しない。西側諸国はそれに代わる選択肢を構築する必要がある」と述べ、欧州で中国警戒論を初めて公の場で表明した政治家だ。最近では独週刊誌シュテルンに寄稿し、「欧州には信頼できる核の抑止力が不可欠だ」と語っている。

ガブリエル氏は、「このテーマを考えなければならない時が来るとは考えてもいなかったが、欧州の抑止力を高めるためには欧州連合(EU)における核能力の拡大が必要な時を迎えている。米国の保護はもうすぐ終わりを告げる。欧州の安全の代案について今すぐ議論を始めなければならない」と指摘した。ガブリエル氏の「欧州独自の核抑止力論」はドイツ南部バイエルン州の州都ミュンヘンで2月16日から18日まで開催された第60回MSCに先駆けて発表された。

同時期、トランプ前米大統領が10日、サウスカロライナ州の選挙集会で、「北大西洋条約機構(NATO)がロシアから攻撃されても、米国は軍事支出が少ない加盟国を守らない」と受け取れる発言をしたことが報じられ、欧州で大きな動揺と困惑が生じていた。MSCではトランプ発言について参加者の間でホットな討議が行われた。

欧州議会選でドイツ社会民主党(SPD)の筆頭候補者カタリーナ・バーリー氏は独紙ターゲスシュピーゲルとの会見で、「トランプ氏の最近の発言を考慮すると、欧州は米国の核の傘にもはや信頼することはできない」と指摘し、EUに独自の核抑止力が必要であると示唆している。

時期尚早との意見も

欧州独自の核抑止力論について慎重論もある。ドイツ野党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)国会議員団のワデプル副議長は、「現時点ではそのような目標(欧州独自の核抑止力)には政治的、戦略的、技術的、財政的根拠がない」と、ガブリエル氏やバーリー氏の独自の核抑止力論について時期尚早と受け取っている。

欧州の核抑止力は現在、NATOがその責任を果たしている。ストルテンベルグNATO事務総長は、「欧州全土でNATOの核抑止力を維持することは米国の利益と依然合致している」と説明、近未来、米国の戦略が変わることはないと強調している。

現在、EUで独自の核兵器を保有している国はフランス1カ国だ。英国も核保有国だが、EU離脱(ブレグジット)以降はEU加盟国ではない。米国の核の傘の代わりに、フランスの戦略核が欧州の核の傘の役割を担えばいいという主張もあるが、核拡散防止条約(NPT)の制約もあって実行には難しい問題がある。

フランスのマクロン大統領は先日、パリでのウクライナ支援国会議で、欧州独自の軍隊をウクライナに派遣する案を提示したが、同国のセジュルネ外相は独高級紙フランクフルター・アルゲマイネとのインタビューで、「欧州はNATO内で拡大した米国の核抑止力に加えて『セカンドライフ保険』を利用する可能性がある」と述べ、フランスの核の傘を示唆している。

独首相らは議論拒否

問題は、EUには防衛の場合に誰が核兵器の使用を命令できるかといった包括的なメカニズムが存在しないことだ。ショルツ首相を含むドイツのトップ政治家は、現時点で欧州の核兵器に関する同様の議論を拒否している。コスト、実現可能性、意思決定力に関しては未解決の疑問が数多くある。

ドイツのピストリウス国防相は、「平和を望む者は戦争の準備をしなければならない」と述べている。第2次世界大戦後、長い平和の時代を享受してきた欧州は、ロシア軍のウクライナ侵攻後、その安全保障政策の抜本的な見直しを迫られている。(小川 敏)

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