インドネシア大統領選受け視野狭窄の朝日、東京と正論述べた産経

簡単に認めたくない

インドネシア大統領選が14日に行われ、プラボウォ国防相が勝利宣言した。

正式な当選者が決まるのは選管発表を待たないといけないが、各紙はさっそく社説を出した。獲得票数がトップでも有効票数の過半数に満たなければ上位2人による決選投票が6月に行われることになるが、プラボウォ氏は現時点で約6割の票を抑えていることから勝利は固いと判断された。

朝日は16日付社説「インドネシア 民主化 後退させぬ道を」で、勝利要因を分析し「勝利を確実にしたのは、SNSなどを使ったイメージ戦略で独裁の記憶が薄い若者への浸透に成功したからだ」とした。

人間というのは、見たいものを見るものだ。朝日は、スハルト独裁政権に加担したプラボウォ氏を簡単には認めたくないらしい。あくまでプラボウォ氏が過去を消し去り、SNSなどを駆使した広報活動によって選挙戦でのし上がったとの見立てを強調。その上で「四半世紀にわたり積み重ねてきた民主化の実績を損ねてはならない。それこそが世界4位、2億7千万の人口を抱える東南アジアの大国が、国際社会の要として重責を果たす原動力だからだ」と民主化後退はあってはならないと釘(くぎ)を刺す。

この点は東京も同様で、16日付社説「インドネシア 民主政治後退させるな」では、「選挙戦では自身を漫画風のキャラクターにした画像で、スハルト時代を知らない若者に『私も庶民派』とアピール。強権とのつながりを薄めようとする試みは、父が独裁者だったフィリピンのマルコス大統領の選挙手法を想起させた」と朝日と同じ目線だ。

大統領人気に乗った

一方、読売は17日付社説「インドネシア 有権者は経済重視路線選んだ」で、「2期10年にわたるジョコ時代にインドネシアは安定した成長を続け、国民が豊かさを実感するようになった。ジョコ氏の支持率は今も70%前後と極めて高い」とし「こうした成長が次期政権下でも続くことへの期待がプラボウォ氏の勝利につながったのだろう。特に若い世代の支持は大きい」と書いた。

朝日より読売の見立ての方が、ストンと腑(ふ)に落ちる見解だ。プラボウォ氏がこれまで2度続けて大統領選に敗北しながら、やっと「3度目の正直」を手にしたのは、ジョコ大統領の長男を副大統領候補に起用し、高い人気を維持してきた現政権の路線踏襲を訴えたからだ。いわばプラボウォ氏に2回の敗北を強いたジョコ大統領の人気の高波に乗るサーファー型勝利というわけだ。

大工の子として生まれ、家具製造輸出会社を経営した後、スラカルタ市長を経て大統領に上り詰めたジョコ氏は「初の平民宰相」として国民から慕われ、まもなく任期終了を迎えようとする今でも支持率7割超と圧倒的人気を博す。

なお東京は同社説で「新大統領を待ち受けるのは、まずは首都移転だ。ジャワ島の1千万都市ジャカルタから、海を隔てて1200キロ離れたカリマンタン島のジャングルを切り開いた荒野に、首都を移す壮大な計画。省庁の一部は今年、移転する。総額4兆円の費用の8割は民間資金などを予定しているが、出足は鈍い。最初の大きな試練となろう」と新政権を展望した。

地政学的価値を把握

この点、産経は前向きだしインドネシアの地政学的価値を的確に把握している。26日付の同紙主張「インドネシア 海洋国家の連携を強めよ」では「インドネシアは、中国が軍事拠点化を進める南シナ海の沿岸国でもある。中東からの原油タンカーの大半が通過するマラッカ海峡などシーレーンの要衝を擁するインドネシアの安定は、日本の国益にも直結する。『自由な海』を守るために、日本は同じ海洋国家として、インドネシアとの連携を強めたい」と正論を述べる。

視野狭窄(きょうさく)の朝日、東京社説に比べ、産経の視野は広くポイントを突いている。

(池永達夫)

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