
今こそ対外発信強化を
2月7日に44回目の北方領土の日を迎え、自民党機関紙「自由民主」(2・20)は1面で特集した。東京都内で開かれた「北方領土返還要求全国大会」の様子と、2020年に東京・虎ノ門に移転した領土・主権展示館の取り組みについてまとめている。
北方領土返還要求全国大会には岸田文雄首相、上川陽子外相、自見はなこ北方対策担当相らが出席した。あいさつに立った岸田首相は、現在中断している元島民らによる墓参などの交流事業について「再開は今後の日露関係の中でも最優先事項の一つ」と語った。また「北方領土問題は国民全体の問題」と強調し、自由民主の記事ではこの言葉を見出しに取った。
日本は22年2月にウクライナに侵攻したロシアに対して、先進7カ国(G7)と歩調を合わせ制裁を行っている。これに対してロシアは平和条約締結交渉の停止を一方的に宣言するなど反発を続けており、北方領土問題を筆頭に日露関係は厳しさを増している。日本との交流を遮断した後も、ロシアは北方領土周辺で軍事演習を行い、観光政策に力を入れている。プーチン大統領は初訪問に意欲を示すなど強硬姿勢をとっており、北方領土問題は膠着(こうちゃく)状態にある。
内閣府が昨年10月から11月にかけて行った世論調査では、ロシアが北方領土を不法占拠している現状を「知らない」と回答した人が35・5%に上った。特に若い世代ではこの傾向が顕著で、30代以下になると約半数が「知らない」と答えている。
国内に向けた啓発が急務であることは明らかだが、対外発信もまた重要だ。自由民主で紹介された領土・主権展示館で掲げる3本柱にも「海外に向けた発信」が含まれている。対話の中断以前は、ロシアへの配慮もあって「不法占拠」という文言を使わない期間が続いたが、それが国内の関心低下を招いたことは否定できないのではないだろうか。
今年の北方領土の日には、米国のエマニュエル駐日大使は札幌市で元島民と面会し「寄り添って支援していく」と伝えたという。ウクライナのコルスンスキー駐日大使もX(旧ツイッター)に「北方領土はロシアに占領された日本の主権領土である」と投稿した。
対話や交渉の道筋が見えない状況ではあるが、今だからこそ国民と危機感を共有し、国際社会に不当性を訴えることに意味がある。岸田首相にはロシアの強硬な態度に屈さない決意を示してほしい。
(亀井 玲那)