「大きな意義」と評価
最近の国内半導体産業を巡る動きから、産経と朝日が好対照の論評を社説で載せた。8日付産経「TSMC第2工場/技術力と人材の底上げを」と11日付朝日「半導体『復権』/政府丸抱えでいいのか」である。
産経社説は台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県に第2工場を建設することになったことを受けたもので、台湾は半導体生産で世界の先頭を走っており、「台湾有事があれば日本の調達にも支障が出かねないだけに、国内に有力な生産拠点を誘致し、サプライチェーン(供給網)を強靭(きょうじん)化することには大きな意義がある」と評価。
また、「かつて世界を席巻した日本の半導体は長期的な低落傾向が著しい」と政府が巨額の補助金を用意してTSMC誘致を進めてきた背景を説明し、「これを足掛かりに」、国内の技術と人材の集積を図り、半導体産業の底上げにつなげたい、と力説する。同感である。
産経が同工場を評価するのは、同工場が回路線幅が6ナノメートル(ナノは10億分の1)の先端半導体などの生産を予定していることもある。先端半導体は、成長が期待される人工知能(AI)や車の自動運転などにも必要とされるが、「日本には、第2工場で計画されるような先端半導体を生産できる拠点はほかにない」からである。
再考は現実的でない
一方の朝日は、政府による巨額の補助金について、「『経済安保』が名目だが、政府主導で持続性はあるのか。資源配分をゆがめ、かえって成長を妨げる恐れはないのか。立ち止まって再考すべきだ」と疑問を投げ掛けるのである。
同紙が特に問題視するのは、「最低でも2兆円規模とされる投資のほぼ全額を国費でまかなう方針」のラピダスへの支援である。
「経済産業省は、ラピダスの半導体は将来の自動運転に必要で、財政負担は税収で取り返せるという。だが、10年以上ともされる技術の遅れを取り戻した上で顧客を開拓し、毎年数兆円の投資を続けなければ勝ち残りは難しい」というわけである。
同紙は、産業振興に際し、基盤技術の研究開発支援やインフラ整備では政府の役割も大きいと認めながらも、「個別事業は民間企業が投資主体になり、競争の中で切磋琢磨(せっさたくま)するのが市場経済のエンジンのはずだ」と強調する。
確かにラピダスの場合は、同紙が言うように、ほぼ丸抱えの極端な例で「復権」は容易ではないが、だからこそ、海外企業とも提携して事業化に取り組んでおり、補助金はいわばスタートアップ資金というわけである。それを「立ち止まって再考すべきだ」は現実的でないだろう。
半導体産業への巨額補助金は、ラピダスだけでなく、産経が取り上げたTSMCや他の外資企業もある。
国内半導体メーカーは事業撤退や縮小を繰り返すことで人材が流出し、技術力を失ったが、国内にはなお半導体製造装置や半導体材料で高い競争力を持つ企業が多い。産経が「こうした産業基盤を生かし、先端技術の蓄積につなげるべきだ」と説くのも尤(もっと)もで、そのために資するのが国の補助金なのである。
エールを送った日経
日経は、生成AIが急速に普及する中、AIのデータを処理する半導体について、9日付社説で論評を載せた。
AI半導体は足元では米大手のエヌビディアの1強状態だが、日経は「新たな技術潮流となったAIでは様々な企業が半導体の開発や生産を競い、関連する市場の裾野が世界に広がることが望ましい」と指摘。
また、省電力性能に優れる半導体の開発といった技術革新の余地も大きいとして、カナダ社と提携したラピダスやTSMCを挙げて、「存在感が薄れ気味だった日本の半導体産業だが、AI向けでは巻き返して市場の健全な発展に貢献してほしい」とエールを送る。再興へのスタートにはこうした論評が前向きでいい。(床井明男)