中国の軍部粛清劇で「対話路線」願望に引っ張られず本質突く東京社説

中国の習近平国家主席(UPI)
中国の習近平国家主席(UPI)

昨年国防相らを解任

東京の4日付社説「週のはじめに考える 習氏『軍粛清』の裏には」が面白かった。

昨年、解任された国防相やロケット軍司令官など「軍部粛清劇」の舞台裏を読み解いたものだ。いつもの東京らしくなく、ずばり本質を突いているところが意外性があって読ませてくれた。

先月開催された汚職摘発を担う中国共産党・中央規律検査委員会総会の閉幕コミュニケは「やいばを内側に向け、集団に害を及ぼす者を一掃する」と綱紀粛正を強調し、習氏自身、戦区視察などで党による「絶対的指導」の堅持を軍に求めてきた経緯がある。

同社説は「習氏には元来、経済発展に統治の正統性の根源を求めるような考えはなかったのではないでしょうか」と説き、不動産不況など経済が低迷し始めて、台湾侵攻どころではないとの観測を一蹴する含みを持たせている。

そして「『共産党指導下での強国建設』こそが、そもそも中国トップになった時から習氏の念頭にあった統治思想であり、リーダーとしての地歩を固めるにつれ鮮明になった鄧路線との決別は、いわば権力集中による強権統治という『地金』が出てきた結果とみることもできるでしょう」と書く。

10月からの成長顕著

さらに「旧ソ連崩壊『他山の石』」の小見出しに続く一文が、ストンと腑(ふ)に落ちる。

「党の絶対的指導確立のために軍権の完全掌握にこだわる習氏は、旧ソ連の崩壊を『他山の石』とした節があります」とし、習氏が2012年の党内会議で旧ソ連崩壊の理由について「ソ連共産党内の一部の人は党を救おうとしたが、専制の道具(軍)が手中になかったから、それができなかった」と指摘したという香港メディアを引用。その上で「毛沢東が『政権は銃口から生まれる』と言った通り、軍を党の最後の砦(とりで)と見る「毛流」の統治論を習氏が信奉している証左ともいえそうです」と結び、鄧路線と決別し「専制の道具」を手にした習氏が、個人崇拝によって「社会を大混乱させた毛独裁時代への逆戻りとならないか」懸念を表明している。

東京の昨年10月24日付記事(電子版)「習近平体制に異常事態 国防相を解任」では、解任された李国防相がロシアからの武器購入が対露制裁違反だとして米国から制裁対象にされていたことから「(米中)両国の軍事的対話再開の動向が注視される」との「対話路線」願望に引っ張られた頓珍漢(とんちんかん)な展望記事だったことからすると、成長ぶりが顕著だ。

背景に台湾問題あり

ただ惜しむらくは、習近平政権の体質だけでなく習氏が目指す政治目標にもスポットを当てる必要があるものの、それへの言及がないことだ。国防相とともにロケット軍司令官を解任し軍の綱紀粛正を図った背景には、「回収には時間がかかる」と習総書記3期続投の理由としても挙げられた台湾問題があると考えられるからだ。

習政権が台湾侵攻に動く時、先陣役を担うことになるロケット軍の役割は大きい。台湾上陸前に台湾空軍やミサイル基地などを叩(たた)くだけでなく、台湾最大の後ろ盾である米軍の支援を阻止・威嚇するのも、初戦は中国人民解放軍の戦略ミサイル部隊「ロケット軍」になる見込みだ。

特筆すべきは「ロケット軍」こそが、大陸間弾道ミサイル(ICBM)など核ミサイルを運用する現場を担っていることだ。現在、中国の保有する核弾頭数は500発以上と急激な核戦力増強が進んでいる。中国は核の先制攻撃はしないとしてきたが、この規制をいつ外すかも警戒事項の一つだ。核戦力を持たない日本をすくみ上らせ、大戦力を持つ米国をけん制するのに「核の先制攻撃」カードは効果を発揮する。(池永達夫)

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