トップオピニオンメディアウォッチ「派閥解散」は自民党内の権力闘争の道具にすぎないと指摘する新潮

「派閥解散」は自民党内の権力闘争の道具にすぎないと指摘する新潮

岸田首相
岸田首相

殿軍を見捨てる敗将

事の本質は避けられて、枝葉末節にばかり焦点を当てている―。メディアの報道を見ていて庶民が素朴に感じることだ。自民党「裏金」問題、お笑いタレント松本人志さんの性乱倫騒動、等々。読者、視聴者には事の本質が見えているのに、それを報じる側はまるでプロレスの悪役の凶器が一人見えないレフェリーのようなのだ。

プロレスはショーだからいい。頓馬(とんま)なレフェリーは見世物を引き立てる重要な脇役なのだから。しかし政治や性倫理問題はそうはいかない。

週刊新潮(2月1日号)が「『岸田VS.麻生』権力争奪の“火薬庫”」の記事を載せた。一気に派閥解散を言い出した岸田文雄首相。自派閥の会計責任者が立件されるとの情報を入手し、慌てて解散したのが見え見えだった。

だがこれに対して、「総裁の立場で自民党全体を考えて発言したというならば、政治刷新本部の場で全派閥の解消を訴えるべきです」と「長年宏池会に所属し岸田総理を支えた三ツ矢憲生元衆議院議員」は同誌に語る。至極まっとうな意見だ。

しかも、これで政権支持率(自民党支持率ではない)が上がったのかといえば、その効果は極めて薄い。むしろ、党内からは激しい反発が起こり、三ツ矢氏のように宏池会OBからは厳しい苦言が出てくる。殿軍(でんぐん)を見捨てて逃げる卑怯(ひきょう)な敗将にしか見えない。

派閥解散を表明したのは他に安倍派、二階派に森山派だが、主流派を構成している麻生派、茂木派は存続させる方針だ。相談もなしに解散を言い出した岸田氏に麻生太郎副総理は怒り心頭。それはそうだろう。猛攻に耐えている出城(でじろ)に取り残された気分だろうから。

冷静な議論見られず

その一方で政治刷新本部では無派閥の菅義偉前首相が派閥解消に向けて動き出し、それを「足掛かりに自身の復権を狙っている」と同誌は書く。

行われているのは自民党内の権力闘争で、その道具が「派閥解散」ということだ。メディアはそのことばかりを報じるだけで、「派閥」の意味を改めて問うという冷静な議論は政界にもメディアにもあまり見受けられない。

本質は「政治資金収支報告書への収入不記載」だ。問われているのは「虚偽記載の罪」である。つまり正しく記入していればいい話だ。それを派閥パーティーはやめるだの、さらには派閥自体を解散するだの、と議論はズレまくっている。

同誌は「自民党東京都連最高顧問の深谷隆司氏」の言葉を載せる。「人間が3人も集まれば、二つの派閥ができるもの。本来、派閥が問題なのではない。ルールを守れなかったのが問題なのです」。これに尽きる。

乱倫の代償どう払う

次に松本人志問題。有力なお笑いタレントが後輩に女性を集めさせて高級ホテルで飲み会を開き、そうとは知らずに来た女性を断われない状況に追い詰めて性的関係を結んだ。そこに「合意」があったかどうかということを問題にして論じられている。

週刊文春が2月1日号でも続けて女性の「証言」を載せているが、この話題で出遅れた新潮は別の角度から切り込んだ。「娘は海外に留学? 年収5億でも家族は茨の道」の記事で、夫・父親の行状(ぎょうじょう)を知った家族に目を向けた。

「精神科医の片田珠美氏」は「娘さんが受けた精神的なダメージも大きいはずです。(略)留学という名目で奥様と海外に移住したほうがいいかもしれません」とアドバイスする。「家族問題カウンセラーの山脇由貴子氏」も「お父さんが不特定多数の女性と行きずりの性行為をしていたと知ったら、汚らわしいと思って心を開かなくなるでしょう」と言う。

合意の有無ではない。まずもって問題とすべきは、妻子ある男の性的乱脈であり、家庭の破壊なのである。「松本は乱倫生活の代償をどう支払うのか」と記事を結ぶ。新潮はいいところを突いている。

(岩崎 哲)

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