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SLIM月面着陸成功に高評価もネガティブな印象残した読売社説

SLIM(JAXAホームページより)
SLIM(JAXAホームページより)

熱い支援を送る日経

21日付読売「課題も残した世界的快挙」、朝日「競争と協調の両輪で」、日経「完璧な月着陸の成功目指し技術を磨け」、23日付産経「必要とされる技術確立を」、本紙「国民勇気づける月面着陸成功」――。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げた小型無人探査機「SLIM(スリム)」が20日未明に月面着陸に成功したことを受けた各紙社説の見出しである(毎日、東京はなし)。

列挙した通り、朝日はSLIMそのものというより、月探査のありように重きを置くもので、他の4紙(結果的に保守系紙ばかりとなった)は月面着陸成功を高く評価する論評になった。意外だったのは、太陽電池が発電できないトラブルに、それでも日経が産経や本紙と同様、前向きに捉えたことと、それに対して読売がややネガティブだったことである。

日頃、費用対効果の観点から日本の宇宙開発に厳しい注文を付ける日経は、今回はべた褒めに近い。「太陽光パネルが発電せず、月の起源を探る調査は数時間で終わったようだ」とし、JAXAの国中均・宇宙科学研究所長が「ギリギリ合格の60点」と厳しく評価したのに対して、同紙は「米中に比べ限られた予算の中で、世界的にも難易度の高いミッションを成し遂げた。開発陣の努力をたたえたい。原因究明を徹底し、次は完璧な着陸ができるよう技術を磨いてほしい」と熱いエールを送る。日経が褒めるのも道理か。

印象分けたトラブル

SLIMは今回、二つの独自技術を採用した。カメラで月面を撮影、月の地図と照合しながら位置を修正し狙った場所に着陸する「ピンポイント着陸」と、斜面に着陸するための技術だ。

太陽光発電ができていないトラブルは二つ目の技術だが、日経は「何らかの問題が発生した可能性がある」とし、「倒れ込んだ際に坂が急だったため、想定よりも大きく転がったと指摘する専門家もいる」とするのみ。厳しい言葉どころか、「宇宙科学研究所は小惑星探査機『はやぶさ』など困難に立ち向かい、成果を挙げてきた。今後も挑戦を続けてほしい」と、ここでも熱い声援を送る。読んでいて気持ちが良い。

一方の読売は、ピンポイント着陸については「世界で初めて実証した。その意義は大きい」と評価。斜めに着陸する技術については「世界初の技術で、開発者の着想は評価に値する」としながらも、「完全に成功したとは言えず、手放しで喜べない面もある」「搭載した観測機器などが十分に使えず、岩石の科学調査などに支障が出そうな状況にあるのは残念だ」とした。

もちろん、同紙も「不具合の原因を分析し、わずかな可能性だとしても復旧の道を探ってもらいたい」と記す。趣旨は日経と同様だが、表現の違いとはいえ、見出しの「課題も残した」や文中の「喜べない」「残念だ」は、ニュアンスの違い以上にネガティブな印象が残るものになった。

産経は前向きな注文

日経と同様に好感が持てたのは、「必要とされる…」とした産経である。月面着陸成功を「世界の宇宙開発において、日本の存在感を高める大きな一歩」としつつ、さらに「スリムに期待されたのは、単に月面着陸を成功させることではなく、米国や中国、インドからも一目置かれる高い精度の着陸技術を実証することである」と指摘し、「JAXAの自己評価で大幅な減点になった『着地の乱れ』を克服し、日本の技術力を世界に示してもらいたい」と前向きな注文を付けたことである。

日経も同様の趣旨で、「国際協力を進めるうえで優れた独自技術は大きな武器となる。さらに高め、国際協力で主導的な役割を果たしたい」とした。月面探査などで日本は米国やインドと連携して進める計画があるからである。

朝日も「従来にない精度の高い着陸技術は国際的な強みにもなる」と指摘する。この点は評価したい。

(床井明男)

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