移民強制移住を議論
ドイツのブランデンブルク州の都市ポツダム市(人口約18万人)で2023年11月、ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)や欧州の極右活動家、実業家たちが結集し、「外国人、移民の背景を持つドイツ人、そして難民を支援するすべての人たちを強制移住させるマスター計画」などについて議論していたことが明らかになった。調査報道プラットフォーム「コレクティブ」が報じた。それを受け、AfDを禁止すべきだ、という声が国内で再び高まってきている。
ポツダム近くのレーニッツゼーのホテルで開催された会議にはAfDのアリス・ワイデル党首の側近で元AfD連邦議会議員のローランド・ハートヴィッヒ氏(ワイデル党首の個人顧問)らの他、オーストリアの最大極右組織「イデンティテーレ運動」(IBO)のリーダー、マーテイン・セルナー氏の姿もあった。
ドイツのメディアによると、セルナー氏は会合で、北アフリカに最大200万人を収容する「モデル国家」を構築し、難民を収容するという考えを提示したという。第2次世界大戦の初めに、ナチスはヨーロッパのユダヤ人400万人をアフリカ東海岸の島に移送するという「マダガスカル計画」を検討したことがあったが、セルナー氏の「モデル国家」はそれを想起させる。
支持率20%超に上昇
ドイツの高級週刊紙オンラインは「オラフ・ショルツ首相や他の多くの政治家は、右翼過激派とAfD政治家らの会合を厳しく批判し、連邦憲法擁護局(BfV)は民主主義が危機に瀕(ひん)していると警告を発した」と報じた。またドイツ民間放送ニュース専門局ntvは「ポツダム会議後、AfDの禁止は可能か」「政党禁止は賢明か」というテーマで読者に問い掛けた。
ポツダム会談の開催が明らかになると、「AfD内に反憲法的な取り組みがあり、従って禁止できる理由がある」というAfD禁止支持者の意見がある一方、キリスト教民主同盟(CDU)のリンネマン書記長のように、「AfDを禁止するか否かの議論はAfDをさらに強くするだけだ」という慎重派の声がある。ドイツでは1956年、ドイツ共産党(KPD)を禁止して以来、政党が禁止されたケースはない。
AfDの支持率は全国的に上昇し、ほとんどの調査機関で20%を超えており、今年選挙が行われるチューリンゲン州、ザクセン州、ブランデンブルク州の三つの連邦州では30%を超えている。
与党の社会民主党(SPD)のサスキア・エスケン党首はntvの番組で、「AfDの禁止をもはや排除すべきでない。AfDは大きな危険をもたらしている。その政党に国が政党援助金を出して支援することは、民主主義にとって自ら墓穴を掘る恐れがある」と述べている。
一方、野党第1党CDUのフリードリヒ・メルツ党首は、ミュンヘナー・メルクール紙の中で、「SPD関係者は30%近くの支持を得ている政党を簡単に禁止できると本気で信じているのか」と問い掛けている。CDU幹部のイエンス・シュパーン氏(元保健相)はntvとのインタビューで、「AfDを禁止しても同党を支援する国民の不満や問題の解決にはならない」と指摘し、SPDのAfD禁止論に警告を発している。
歴史的懺悔がリンク
ドイツでは、AfDの禁止問題は、「もし国民社会主義ドイツ労働者党(NSDAP=ナチス)が禁止されていたらヒトラーの台頭は防ぐことができたのではないか」といった“歴史的懺悔(ざんげ)”とリンクされる傾向がある。
それに対し、元憲法判事リュッベ=ヴォルフ氏はドイツのメディアに、「NSDAPは23年のヒトラー一揆後に一時的に禁止されたが、ヒトラーの台頭を防ぐことができなかった。法的力が不足していたのではなく、この党を阻止するという政治的意志が欠けていたからだ」と答えている。
AfDの禁止については、民主主義の根本原則に接触する問題が含まれているだけに、政治家だけではなく、国民も意見が分かれているのが現状だ。
(小川 敏)