
民進党の頼氏が勝利
台湾の総統選は、中国の台湾併合圧力に屈することなく「自由と民主が保障された現状維持」を求め続けた民進党の頼清徳副総統が国民党の侯友宜新北市長と民衆党の柯文哲前台北市長との三つ巴(どもえ)戦を制し勝利を収めた。
有権者は中台統一へ向け本格的に駒を進めようとする中国を警戒、対中融和に傾く国民党に政権を託すリスクの方を重く見たためと考えられる。柯氏は若者の圧倒的支持を得たものの、壮年を含む国民的広がりには欠けた。
産経は14日付主張「新総統に頼氏 台湾の自由と民主を守れ」で、「頼氏は自由と民主主義を守るために、中国の浸透工作摘発を進めるとともに、防衛力の充実によって対中抑止力の向上を急いでもらいたい」と書いた。
「民主主義も法の支配も遵奉(じゅんぽう)しない中国は、『力の信奉者』である。そのような専制主義の国と対話をする上でも、台湾海峡の平和と安定を守る上でも、抑止力の強化が欠かせない」とし、「『台湾有事は日本有事』である。(中略)日本は台湾を国家として承認していないが、外務・防衛当局による安全保障対話、半導体などをめぐる経済安保対話で、関係を深めるときである」と外務・防衛、経済の実務協議の推進を謳(うた)い、一歩踏み込んだ具体的な日台関係深化を提言した。
民衆党票が流れたか
14日付日経社説「『中国と距離』選択した台湾の民意尊重を」は、「次期共産党大会の開催と人民解放軍創設100年が重なる27年までに米国の介入を阻む軍の体制を整えようとしているとの見方は多い。新総統の任期である24年5月から28年5月はカギを握る時期だ。台湾有事のリスクがある以上、新政権はあらゆる事態を想定した危機対応能力が求められる」と的を射た社論を張った。
なお総統選と同時に行われた立法委員(国会議員、定数113)選では、52議席を獲得した国民党が第1党となり、51議席にとどまった与党・民進党は少数与党に転落した。
この行政と立法のねじれ現象に関し、読売は14日付社説「台湾総統選挙 対中警戒の民意が示された」で「住民に身近な経済問題が対中政策と並ぶ争点となったことが影響したのだろう」と民進党の敗因を分析したが、私個人は地方に政治基盤を持たない柯氏の民衆党支持者票が国民党に流れたものと解釈している。それが正しければ、立法委員選は国民党が勝利したわけではなく民進党がただ敗北しただけということになる。
世論工作のけん制を
このねじれ現象に関し特筆すべきは日経中国総局長・桃井裕理氏の14日付署名記事「台湾が払う民主主義のコスト 中国『ただ乗り』に防戦を」だ。この記事で桃井氏は、政権は民進党が取り立法院(国会)は国民党が第1党を取った、行政と立法のねじれによる混乱に中国がつけ込んでくるリスクを論じた。
「(ねじれで)重要な政策立案の多くが停滞し、内政や社会が混乱するのは避けられない」が、中国にとって「世論のかく乱のためには脆弱な内政は望ましい。民主主義の『正常な不利益』が中国の『不当な利益』へと転じる事態は十分に想定できる」というのだ。
さらに桃井氏は「(習近平政権は)頼氏を敵視し、台湾への軍事的圧力を強めるとともに一層の世論戦や心理戦を仕掛けようとしている」と対中警戒感を述べ「米国や日本など民主主義陣営にある国際社会はこれまで以上に連携し、中国の不当な世論工作を監視・けん制していく必要がある」と正論を披歴した。
そして桃井氏は「台湾は今、専制主義から民主主義を守る戦いの最前線にある。そして、台湾が支払う民主主義のコストに対する中国のフリーライドを決して許してはならない」と総括したが全く同感だ。(池永達夫)