医学界の“内幕もの”が興味深い里見清一氏連載の「医の中の蛙」

聴診器のイメージ(unsplash)
聴診器のイメージ(unsplash)

日本医師会は猛反発

日本赤十字社医療センター化学療法科部長の里見清一氏が週刊新潮に執筆の長期連載「医の中の蛙」。医療現場、医学界の“内幕もの”なので面白くないはずがない。ここ1カ月分を見ると―。

1月4・11日号のタイトル「医療費が減らない」。昨年11月、財務省の財政制度審議会が診療所(開業医)の診療報酬を5・5%引き下げる答申を出した。「ごく平たく言えば、『コロナで儲けたのだから、少々返せ』という意向もあるらしい。当然、開業医が主なメンバーである日本医師会は猛反発した」

ところが「ある超一流大学出身の先生が大学病院を辞めて開業したものの、『収入は5倍になったが働き甲斐を失い、自分は社会に貢献していると思えず、虚しさは100倍』」とSNSで発信する開業医もいる。一方、「『これで仕事になるのか』と眉を顰めたくなるような先生(筆者注・開業医)も、いないではない。全部込みの『平均値』で方針を出さないといけない財務省も大変だ」とする。

その上で「(医療費が減らない)最大の障壁は、患者側にある」「安直にくれる薬の方を有難がる考えを改めない限り、また『自分たちが無駄をしている』と気づかない限り、保健医療の破綻は避けられないだろう」と。医療費を減らすことの難しさが見えてくるが概して患者の甘さに手厳しい。

世間に疎い殿様商売

昨年12月28日号「誰も言わない悪質ホスト対策」では「医者は元来、『赤の他人』である患者から身体や生命を預けられるほど信用されないとどうにもならない仕事なのだ」と、その例を挙げる。

里見氏が膝を痛めた知人に対し紹介した当の整形外科医は、痛みで動けないその患者を前に、「開口一番『里見という先生とはどういう関係?』と聞いてきた。(中略)その後も『レントゲンでは骨はなんともない。あとはMRIを撮らないとわからないが、うちは予約が一杯なので、どこか他所で撮ってきてください』と言い放ちやがったと、その知人は激怒していた」「患者に『この医者は自分のことを考えていない』と思われてしまっている」。「医者は世間に疎い、一種の殿様商売なのだが、そんなことでは世の中についていけない」とズバリ。タイトルに関しては、悪質ホストをはびこらせたのは「判断力の乏しい若者を無理やり『成人』にしたツケ」と成年年齢の引き上げを提案。くだんの外科医は「人に信用される技術」をホストに見習うべしというオチ。

同21日号「『エビデンス』の落とし穴」の「エビデンス」は「(客観的)根拠」の意味。治療のエビデンスにはレベルがあり、最下等は「患者データに基づかない専門家個人の意見」。パンデミックの際に、「アビガンを何千人に使いました」という“データ”は下から2番目のエビデンス。「なのにあの時アビガンの早期承認が真面目に議論されたのは、科学的無知と政治的配慮があったのだろうと私は考えている」と。

無駄な延命誰が決定

同14日号「『無駄な延命治療』とは何か」。医療の目的は「生存期間の延長」+「症状の緩和」で、前者が延命医療。問題は「誰が『無駄な延命に相当する』と決めるのか」。「その時治療にあたる担当医が候補になる。病態を一番把握できている。しかしながら、大きな病院では、この『先生』はこの間受持になったばかりで、しかも若い、という場合が多い。おまけに現代の若い医者は、大学で『人間は必ず死ぬ』および『医療には金がかかる』ということを教えられていない」「そんな若造に、この重大な決定を委ねられるか」と容赦ない。

里見氏は「一律に年齢で区切り、一定以上の高齢患者には延命治療をせず症状緩和のみとする、という方策がやはり公平で適当ではないか」と。問題は「症状緩和の医療(中略)と『延命治療』がかぶること」だという。目に見えない命に対する懸命な医療。人の命とは何かを考えさせられる。(片上晴彦)

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