「岸田怨嗟」の声充満
選挙の年が始まったと同時にわが国は能登半島地震、日航機衝突事故と立て続けに災難に見舞われた。中国には「天人相関説」というのがある。天変地異や災厄は君主の不徳に因するというものだ。科学的な話ではないが、権力者に「徳政」を促し謙虚さを求める言葉である。
日本政界は「裏金疑惑」に関心が集中している。政権の低い支持率を見れば国民の信頼はとうに離れているが、岸田文雄首相は至って元気だそうだ。これを「鈍感力」という。痛みを感じるのは生命の危機を察知し危機を回避するためにある。そのセンサーが壊れていたら、危機は放置され増大する。これはもう「鈍感力」を通り越して「マヒ」という。
何がマヒしているかといえば、一つには党内から聞こえる岸田怨嗟(えんさ)の声だ。二階派の大臣は派閥離脱だけで残したのに、安倍派は大臣のみならず、副大臣、政務官まで切った。「辞任した」とひとごとのように言っているが、政権から安倍派を追い出したのだ。安倍派に「岸田憎し」が充満するのは外部の素人が見ても分かろうというもの。
週刊誌はそんな庶民の「横丁の政談」を敏感に反映させる。週刊ポスト(1月12・19日号)が「安倍派の『岸田道づれ暴露』」を報じた。「安倍派は本気で逆襲の準備を始めた」として、「疑惑を主流3派にも飛び火させて大炎上させる」(安倍派関係者)と物騒なことを言っているというのだ。
何といってもこうした政権党内のごたごた、“血で血を洗う”派閥抗争ほど旨(うま)い酒のつまみはない。その感覚の裏にはカタルシスを求める心理があるのだろうが、そうかといって自民党に取って代わるほどの野党がいないのが日本の不幸である。
両大御所の床屋政談
さて、安倍派の逆襲だが、同誌は具体的なことは書いていない。安倍政権が長かったことから、閣僚選びのために行った「身体検査」資料が多く残っていると書くだけだ。それにしたって、その「スキャンダル情報」がどれほどのものか、賞味期限切れもあるだろうに。
3月17日の自民党大会で「岸田批判を噴出させ、党大会は大荒れになる」(安倍派関係者)と言うが、あと2カ月のうちに情勢がころころと変わっていき、その前に岸田政権自体がどうなるか分からない。
記事の前段で「診療報酬改定」と日本医師連盟による岸田氏の資金管理団体への献金を書いているが、「法律に従い適正な政治活動を行っている」と返されて、突っ込むことすらできていない。見出しだけの肩透かしに終わっている。
別の記事で政治評論家の屋山太郎氏とジャーナリストの田原総一朗氏の対談「ポスト岸田は『石破茂』か『高市早苗』か」がある。出てくる人名は何か悪い冗談かと思わせる。両大御所の放談会は小泉進次郎、河野太郎などの名前も出て、結局「自公+維新」の可能性にも触れられる。床屋政談が盛り上がること疑いなしだ。つまりそのレベルの話ということだ。
瓦解防ぐのが現状か
週刊新潮(1月4・11日号)は「『大物立件』の最終攻防」をトップで載せた。検察は誰を立件するのか、「特捜部は二人の人物に照準を合わせた。西村(康稔)前経産相と、高木(毅)前国対委員長」だという。両氏は安倍晋三会長(当時)が「キックバックを止めろ」と指示した前後に派閥事務総長に就いていた。それでもキックバックされたのは後に事務総長になった高木氏の指示ということになる。
高木氏が自分の意思で安倍氏の方針を曲げることはできない。バックに大きな力があったはずで、「森喜朗元総理に相談して決めた可能性は大いにあると思います」と清和会関係者は同誌に語る。だから特捜部はそこにまで追及できるかどうかというのが記事のポイントだ。捜査が高木氏で止まるのか、森氏にまで及ぶのか。安倍派にとっては実は「反撃」どころか、瓦解(がかい)をいかに防ぐかというのが現状だろう。
同誌は次のまとめ役と目される萩生田光一前政調会長の「疑惑の映画観賞会」も取り上げている。新潮のいやらしさだが、こういったジャブが効くものだ。(岩崎 哲)