「信頼回復に取り組む」強調
首相の最後の分水嶺になるか
自民党の政治資金パーティー収入を巡る問題が連日世間を騒がせている。自民党機関紙「自由民主」(12・26)は臨時国会閉会を受けて開かれた岸田文雄首相(党総裁)の記者会見を1面に載せた。見出しには「先頭に立って信頼回復に取り組む」とある。記事の最後では経済政策や外交などにも触れられているが、大半は政治資金問題と政治の信頼回復に関する話だ。
首相は記者会見の中で、自身が「火の玉」となって改革を進めるとの強い決意を示したが、新たな具体策を語ることはなかった。会見以前に発表されていた、派閥の政治資金パーティーの自粛や、首相自身の派閥離脱について改めて説明するにとどまった。
首相は7日に派閥離脱を表明した際、「党内には無派閥の人間も大勢いるので、総理・総裁の任にあるうちは派閥を離れるのが適切だと考えた」と述べた。言っていることは間違っていないが、あまりにも遅過ぎる。首相就任中は派閥を離れるという党の慣例に逆らって派閥会長として積極的に活動し、菅義偉前首相からは「派閥政治を引きずっている」と苦言を呈されることもあった。それでも派閥にとどまり続けたのに、このタイミングでの離脱は「逃げ」とみられても仕方ないだろう。
そもそも自民党には1988年のリクルート事件を受けて、翌89年に策定した「政治改革大綱」が存在する。大綱には、「派閥の弊害除去と解消への決意」として、首相(総裁)だけでなく「副総裁、幹事長、総務会長、政務調査会長、参議院議員会長、閣僚は、在任中派閥を離脱する」と明記されている。しかし、実際には首相就任以外で派閥を離脱する閣僚・党幹部はいない。完全に有名無実化している。
政治改革大綱について、石破茂元幹事長は検証を求め、萩生田光一前政調会長の後任として新しく就任した無派閥の渡海紀三朗政調会長は「今の自民党議員が作ったものでなければ守ろうとならない」と新大綱の策定に意欲を示している。一度掲げた改革方針を形骸化させてしまったことが今回の問題につながっていることは間違いない。検証や新大綱はいずれ必要になるだろう。
ところで首相は最近特に、「派閥」ではなく「政策集団」の呼称を使うことを徹底しているようだ。「自由民主」の記事内の表記も「政策集団」で統一されており、「派閥」は出てこない。派閥と聞くとどうしてもカネやポストを配分するイメージが付いて回る。それを避けるためだろうか。
派閥解体論がしばしば話題に上がるが、その際に政策集団としての意義を強調する議員は多い。確かに党内でさまざまな立場の政策論議が行われるのは良いことだが、政治改革大綱を実行できなかった現在の自民党の派閥は、前述したカネやポストを配分する役割の方が大きいように見える。
現在、安倍派(清和政策研究会)と二階派(志帥会)が東京地検特捜部の捜査を重点的に受けているが、刑事告発されたのは5派閥だ。既にキックバックがあったことを報じられている派閥もあり、問題がどこまで大きくなるのかは見通せない。
また安倍派では過去にキックバック廃止の方針が決定されたにもかかわらず、その後撤回されたという。問題を認識した上でキックバックを繰り返したとすれば悪質性も高く、自浄作用も期待できない。
自民党は年明けにも政治改革のための新組織を党内に設置する方針だが、これが首相が国民に信頼されるかどうかの最後の分水嶺(れい)になるのではないだろうか。
(亀井 玲那)