女性の尊厳守れデモへの過激妨害、報道せぬ既存メディアの使命放棄

レッテルを貼り排除

「差別者、帰れ!」「トランス差別を今すぐ止めろ!」

これはX(旧ツイッター)上にアップされた動画の一こまだ。コメント欄には「新宿に響き渡る反トランスヘイトの声」とある。これだけ見れば、心と体の性別が一致しない「トランスジェンダー」への差別反対デモの動画だと思うだろう。

だが、実際は違う。デモは、一定の条件の下で戸籍上の性別変更を可能にした性同一性障害特例法(特例法)の廃止を求めて行われた。主催は「女性の権利と尊厳を取り戻す会」。つまり、トランス差別反対デモではなく、特例法は「女性迫害法」と捉え「性別は変えられない」と訴える女性たちのデモ(今月23日)だった。

ではなぜ、デモの趣旨とは真逆の叫び声だけが大きく聞こえるのかといえば、妨害者が大勢押し掛け、参加者に罵声を浴びせながらデモつぶしを行ったからだ。今回、このデモについて取り上げるのは、女性の権利擁護がトランスヘイトになるとか、逆にトランスジェンダーの権利主張が女性迫害になるとかを問題提起したいがためではない。

昨今、「多様性の尊重」を旗印にしながら、自分たちの意見とは異なる主張を行う側に「差別者」のレッテルを貼り排除しようとする嫌な空気が社会に広がっている。「ポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)」「キャンセルカルチャー」と言ってもいいだろう。LGBTを巡る動きには、それが顕著に現れており見過ごせないのである。

顔を隠してデモ参加

筆者がこの動画を見たのは産経がネットにアップした記事「サイレンにスマホ撮影、罵声、中指…『男性は女性になれない』デモに過激な妨害」を見たのがきっかけだった。それによると、デモに参加したのは20人弱。性別適合手術を受けて戸籍上の性別を変更したとして、元男性が銭湯やトイレ、更衣室などの女性スペースに入ってくることに拒否感を覚える女性は存在する。

記事によれば、デモ参加者の多くはサングラスやマスクで顔を隠している。スマホなどで撮影されれば、ネット上にさらされ私生活が脅かされることもあるからだ。警察官が警備するとはいえ、デモ参加者の数倍規模の人数が取り囲み「差別者!」と罵声を浴びせる。その恐怖や屈辱感を覚悟の上でなければ、とても参加できない。デモが少人数になるわけである。

マスコミが「言論の自由」を守るのが使命と言うのなら、このデモ妨害の異様さこそ報じるべきではないのか。ところが、新聞記事検索サービスで探しても、記事は1本もヒットしない。産経でさえもネットの報道なのである。

差別的な印象与える

ポリコレの嵐は、出版界でも吹き荒れている。出版大手KADOKAWAが来月発売予定だった『あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇』の刊行を中止したことだ。

本の著者は米国の女性ジャーナリスト。LGBTの権利擁護が過剰になる社会風潮の中、性転換手術を受けて後悔する若者や家族の苦悩などを描いたノンフィクションで、米国ではベストセラーになり世界10カ国で翻訳刊行されいる。日本での刊行が決まってからは、同社に「トランス差別を助長する」など抗議が殺到。結局、圧力に屈し謝罪してしまった。

弊紙はこの問題を今月7日付1面で掲載。米国でもLGBT活動家らの抗議によって、一部大手量販店が販売停止の措置を取ったが、後に撤回したことなど、日本との違いを報じた。ところが朝日、毎日はKADOKAWAが謝罪し刊行中止したことを短く報じただけで、あたかも本が差別的だった印象を与えている。

Xでは「虚偽情報であふれている」と本の内容を批判する声と、デモ妨害も刊行中止も「言論弾圧だ」など両論ある。異論封じの風潮に抗(あらが)うには、既存メディアにはもはや期待できず、あとはSNS頼りか、とさえ思えてくる。

(森田清策)

spot_img
Google Translate »