今年の漢字 使命を逸脱した2023年の新聞には「虚」が相応しい

2023年12月25日(月)、イスラエルとパレスチナ人の間で戦闘が続き、ガザ地区全体に飢餓が広がる中、ガザ地区南部のラファにある仮設のチャリティーキッチンで、食料の一部を受け取るのを待つパレスチナ人。(UPI)
2023年12月25日(月)、イスラエルとパレスチナ人の間で戦闘が続き、ガザ地区全体に飢餓が広がる中、ガザ地区南部のラファにある仮設のチャリティーキッチンで、食料の一部を受け取るのを待つパレスチナの人々。(UPI)

テロリストに屈した

筆者担当の今年最終回は2023年の新聞を総括しておきたい。「今年の漢字」は「税」だそうだが、新聞には「虚」を推したい。元来の新聞の使命が虚しくなるほど逸脱していたからだ。その理由をざっと挙げてみる。

第一にテロリストに屈した。安倍晋三元首相の銃撃事件に対して「断じてテロを許さない」という論評はこの1年、まったくと言っていいほど聞かれなくなった。パレスチナ自治区ガザのテロ集団「ハマス」が約1400人の民間人を虐殺し女性や幼児らに暴力の限りを尽くしたが、事件直後にはテロ批判もあったものの、いつしか責任をイスラエルに転嫁し「断じてテロを許さない」の言を消し去った。

第二に国民の命を守ることに疎かった。暴力の危機はウクライナ戦争やガザ紛争だけではない。中国が台湾の武力制圧をほのめかし、北朝鮮が核の先制攻撃も辞さないとするのに相変わらずの「平和ボケ」だ。日本を守るにはコペルニクス的転換が必要だが、リベラル紙は9条にしがみつき、保守紙は改憲も防衛力増強も従来の延長線上で論じるのみ。真剣味が希薄だ。

第三に「信教の自由」を脅かした。安倍事件に端を発する世界平和統一家庭連合(以下、教団)問題では大洪水のごとき反教団キャンペーンを張り、その一方で教団側の主張はほとんど報じなかった。この問題は刑事訴訟つまり警察や検察が犯罪行為を取り締まる刑事事件から起こったものではない(例えば自民党の献金還流問題は正真正銘の刑事事件だ)。岸田政権は無理くりに民法を持ち出し解散請求に及んだが、その正否を新聞は論じず、保守紙もリベラル紙も諸手を挙げて賛成した。新聞の謳(うた)い文句である「権力の監視」はどこ吹く風だ。

性倫理を疎んじ軽視

第四に性暴力を黙認した。ジャニー喜多川氏の長年にわたる性加害問題では2003年に東京高裁が認めた性加害をほとんど報じず、その後は系列テレビ局や広告などでの自社の利益を守るために「報道しない自由」(だんまり)を決め込んだ。「日本のメディアの沈黙は世界から相当異常に見られている」(毎日の第三者機関「開かれた新聞委員会」今年6月)との事態となり、ようやく腰を上げたが、責任逃れのテレビ批判に終始し新聞の責任については言い訳程度しか書かない。テレビと同罪なのにまるで他人(ひと)事だ。

第五に性倫理を疎んじた。これはあまり言われないが、重大な社会問題と筆者は考える。LGBT問題は社会全体の「性」のありように関わる倫理的側面がある。ジャニーズ問題で東京は「『しょせん芸能界のスキャンダル』という意識で軽視していました」(10月3日付)と言ったが、軽視したのは芸能界だけではあるまい。LGBT法を巡って女性や子供の権利を脅かす事態(「心は女性」と自称する男の女湯侵入事件等)に無頓着で、リベラル紙は「しょせん公衆浴場での出来事」と言わんばかりだ。その態度はいずれ性の逸脱を「しょせん社会のスキャンダル」で済ませ、「性の奔放」を招きかねない。

第六に法治を軽視し「民意」なる世論を神聖視する悪しき風潮に染まった。米軍普天間飛行場の辺野古への移設計画を巡る「代執行」訴訟で、玉城デニー沖縄県知事は敗訴したのに「民意」をかざして司法判断を無視し、それをリベラル紙は正当化している。

自ら消し去った決議

こう見れば、今年10月の新聞大会(日本新聞協会主催)の決議が空しく響く。「正確な報道と公正な論評を、人々に届け続け、健全な言論空間を守り育てなければならない。情報環境の激動期にあって、民主主義の発展に寄与することを誓う」。正確な報道? 公正な論評? 健全な言論空間? 民主主義の発展に寄与? いったい、どの口でそう言うのか。いずれも新聞が自ら消し去ったのではなかったか。だから今年の新聞への漢字は「虚」が相応しい。

(増 記代司)

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