
全会一致制が議論に
東南アジア諸国連合(ASEAN)と日本の友好50周年を記念した特別首脳会議が東京で開催されたことを受け、朝日と東京が19日、社説を張った。
19日付朝日社説「日本とASEAN 学び合う関係へ深化を」では、「日本が支援する側に立つだけの時代は終わった。相手の活力を認め、日本側も謙虚に学ぶ姿勢があってこその『真の対等』といえよう」との書き出しで始まり、「発展段階や政治体制が異なる国々が、話し合いで一致点を探る。ASEANから学ぶべき点は多い」とした。
だが、話し合いで一致点を探るASEANの全会一致制は現在、ASEANの政治力をそぎ落とす元凶として議論の焦点になっている政治課題だ。
ASEANがミャンマーのクーデターによる軍事政権復活を、民主化回帰へうまく誘導できなかった最大の原因が全会一致制の呪縛だった。全会一致制の呪縛とは、参加国の1国でも反対すれば議決できず、議決を優先すれば結局、参加国全部が納得する角をそぎ落とした甘いものにならざるを得ないというものだ。
中国は、中国に近いカンボジアやラオスを利用して自国に不利な決議を事あるごとに排除してきた側面がある。ASEANの全会一致制を、いわば“拒否権行使のカード”として使ってきたのだ。
バランス維持が肝要
なお朝日は同社説で「中国の強引な海洋進出が地域を不安定化させているのは確かであり、経済中心だったASEANとの関係も変わらざるを得ない」とし、「自由で開かれたインド太平洋」の促進や、安全保障協力の強化をうたった共同声明を評価しつつも、「中国封じ込めに利用していると思われれば、不信感を招くだけだ」と警戒感を述べた。この部分こそが朝日の本音だろう。
一方、19日付東京社説「対ASEAN 平和を軸に関係深めて」は、「国際法に反する中国の動きをけん制すべきなのは当然だが、防衛装備品供与など、日本の姿勢が中国に過剰な反応の口実を与えないよう留意すべきだ」と書いた。こうした書き方を見ると、朝日・東京はまるで一卵性双生児だ。
だが供与が決まったのは大型巡視船や救難艇、それに沿岸監視用レーダーだ。それを先回りして「中国に過剰な反応の口実を与えないよう留意すべきだ」とは、「国際法に反する中国の動きをけん制すべきなのは当然」なんて本気で思っていないのではないか。
中国の覇権主義的行動に圧力をかけるには、「力の空白」を生じさせないパワーバランスの維持が肝要となり、そのための緻密な打ち合わせこそがお互いに問われてくることになる。
赤い野心を見据えよ
美しいバラに棘(とげ)があるように、美しい言葉にも安易に近寄る人を傷つける棘が存在する。美しい言葉に棘が潜むのは、真実の裏打ちがなされていないからだ。いわばうわべだけの偽装論であり、そこに体重を掛ければ途端に踏み抜き、落とし穴に潜む槍(やり)で串刺しになるリスクがある。
こと中国関係においては、その「赤い野心」から目を背けることなく、正面から見据える必要がある。
ASEANは米中の確執に関しては基本的に両天秤(てんびん)外交を踏襲し、どちらとも関係を結びながら双方から頂くものは頂くという実利路線を敷く。ASEANにとって中国は隣国であり、貿易関係もトップクラスにある実情を考慮すれば当然の外交姿勢だろう。
しかし、近年の中国経済の失速から中国市場の魅力が色あせてきていることや、これまでの8段線から9段線に急に変更したような南シナ海に見られる強引な海洋進出など、中国の実情に即した実利の変化や脅威の実像を適宜示しながら、ASEAN外交の微調整を促しつつ西側陣営にけん引していく壮大な努力こそがわが国に願われる。
(池永達夫)