トップオピニオンメディアウォッチ政界が“裏金疑惑”で揺れる中、「田中角栄待望論」をぶち上げたポスト

政界が“裏金疑惑”で揺れる中、「田中角栄待望論」をぶち上げたポスト

国民に将来の夢示す

自民党安倍派(清和政策研究会)の“裏金疑惑”で政界が大揺れに揺れている中、週刊ポスト(12月22日号)が「田中角栄よ、甦れ!」の記事を載せた。よりによってなぜ今、田中角栄か。「金権政治家」としてマスコミが総攻撃した政治家ではなかったか。

政界を揺るがしているのは安倍派だけではない。肝心の岸田文雄首相の支持率が下がり続け、ついに17%になった。何よりもリーダーシップに欠けているという国民の評価だ。

こうして政治が漂流するごとに出てくるのが「田中角栄待望論」で、まさに今がその時、ということなのだろう。

同誌は田中角栄の死去と「失われた30年」の始まりが重なると指摘する。この間「国力は衰え、少子高齢化は止まらない。(略)それなのに政治は解決の処方せんを示すことができずにスキャンダルを繰り返している」とし、「角栄なら国民に新しい社会への夢を描いてみせるはずだ」と詮無い期待を寄せる。

「日本列島改造論」のゴーストライターだった元秘書の小長啓一、「田中軍団」秘書会を統括していた元秘書の朝賀昭、米国と渡り合ったタフな外交を見てきたジャーナリストの田原総一朗、「角栄最後の弟子」を自任する衆院議員の石破茂の4氏にそれぞれが見た田中角栄を語らせている。

高速道路と新幹線を通し、人口25万都市を各地につくるという改造論だったが、「逆に『ストロー現象』でより東京集中になった」のが現実だ。それにもかかわらず、小長氏は「産業再配置という処方せんが書かれたが、それは現在も通用するものだと思います」と述べる。

要は「国民に『将来の夢』を示すこと」ができるかどうかだ。「減税」や「高校無償化」では夢は抱きにくい。朝賀氏は「岸田政権は政策以前に、“何をしたいか”が国民に伝わっていない」と苦言を呈する。構想力、疎通力ともに現政権は落ちる。

タフさ必要な為政者

「米国のポチ」という屈辱的な言われ方をしているが、日本がイニシアチブを取って外交を進めたのは安倍晋三氏の時だ。「自由で開かれたインド太平洋」の一言は世界の流れをつくった。ところが、その安倍首相の下で外相を長く務めた岸田氏にタフな外交は見られない。「このタフさこそ、為政者に求められる」(田原氏)というのに。

石破氏は「政治とは何か、選挙とは何かを一番知っている政治家でもあった」と述懐する。“最後の弟子”は党内でも、選挙でも、角栄張りの辣腕(らつわん)を発揮できていないように見える。

田中角栄はこの世にはいない。「ミニ角栄」とか「第2の角栄」と、角栄を彷彿(ほうふつ)させる政治家も見当たらない。仮に角栄方式を今日の行き詰まった日本に当てはめて突破口を開こうとしても、条件は全く違っている。角栄が推し進めたのはまだ高度成長期の余韻が残っていた時だったから可能だった政策の数々であって、日本列島改造論がそのまま現代に通用するわけではない。

政治環境大きく変化

それに、政治環境も大きく変わった。中選挙区制、自民党5大派閥時代の政治と、小選挙区制、自民一強(野党総崩れ)の今の政治とではできることと、できないことがある。コンプライアンスは政治にも求められ、“料亭政治”はもう明治ぐらいに遠い出来事だ。

にもかかわらず、「いま角栄だったらどうしただろうか」と昔を知る世代なら考えてしまうのも事実。この辺がほぼ中高年読者しかいない週刊誌の現状が滲(にじ)み出ているが、ともかく、角栄の情報力、発信力、政策への造詣、立法技術、官僚操縦術、モノ申す外交力に懐旧の念を禁じ得ないのだ。言い換えれば、どれをとっても岸田政権に不足しているものだから。

田中角栄は不出世の政治家だ。もう日本で彼ほどのスケールの大きな政治家は出てこないだろう。今の制度と日本人の政治意識では、こういう人間は政治の表に立てない。ノスタルジーだけをかき立てる。(岩崎 哲)

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