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競争力強化へNTT法廃止を急く日経、公正競争で慎重な産経、本紙

左派系紙は論評なし

自民党プロジェクトチームのNTT法廃止提言を受け、共同記者会見する携帯電話3社のトップ=4日午後、東京都中央区
自民党プロジェクトチームのNTT法廃止提言を受け、共同記者会見する携帯電話3社のトップ=4日午後、東京都中央区

5日付産経「公正な競争環境が前提だ」、8日付読売「通信分野の競争力高めるには」、9日付日経「NTT法廃止を見据えた環境整備を早く」、本紙「『廃止ありき』の姿勢は疑問」――。

自民党がNTT法を2025年をめどに、段階的に廃止するよう提言をまとめたことに対する各紙社説の見出しである。

企業の競争力強化に絡むテーマだけに、論評掲載の4紙はいずれも保守系紙ばかりで朝日や毎日、東京の左派系3紙からは論評なし。もっとも、通信業界の雄とはいえ公共的な通信インフラにも内容が及ぶだけにこれら3紙からも論評がほしいところである。

さて掲載4紙の論評だが、列挙した通り、NTT法の廃止に対して前向きな日経、中間的な読売、慎重な産経・本紙といった感じで思った以上に違いが出た。

中でも、日経の前向きさは廃止というゴールに向け結論を急ぐよう促すもので突出した感がある。

開示義務改正は妥当

1985年の旧電電公社の民営化に際して導入されたNTT法について、同紙は「歴史的な役割をほぼ終えており、廃止の方向性は妥当だろう」と指摘し、政府は公正競争の確保など残る課題の検討を急ぎ、技術革新を後押しするような、新たな規制の形を模索すべきだと強調する。

同紙の突出さは、同法がNTTに課している全国一律の固定電話サービス提供と研究開発成果の開示義務について、「いずれも時代錯誤の感が否めない」としている点だ。

このうち後者の研究開発成果の開示義務については、4紙とも競争力向上の点で違いはない。NTTは現在、光技術を活用した次世代通信基盤「IOWN(アイオン)」の開発を進めており、開示義務が課されれば、国際競争力で不利になる恐れもあるからだ。

日経は「(研究開発は)同社の自主性に委ねるのが筋」とし、読売なども「開示義務を改めるのは当然」とする。産経と本紙は経済安全保障の点からも改正は妥当あるいは重要と説く。

大きく異なるのは前者の全国一律サービスで、同法が廃止になれば、「不採算の地方の通信網が切り捨てられるとの懸念の声もある」(読売)こと、また同法の廃止には、公正な競争環境の確保を前提としなければならないという点だ。

「特別な資産」を持つ

KDDIやソフトバンクなどライバル企業は、NTTの市場独占を懸念し、同法の廃止には強く反対する。NTTは「電電公社が税金や電話加入権で整備してきた全国の電話線や電柱などの『特別な資産』を引き継いだ。競合他社が有料で借りている光ファイバー網もこうした設備を利用している」(本紙)からだ。産経や本紙は、NTT法の廃止によって経営の自由度が高まれば、「NTTが肥大化して料金の高止まりやサービスの停滞が生じるとの見方が出ている」(同)と懸念する。

ところが、日経は「公正競争のルールを整え、活発な競争を実現することは国民にとっても最優先事項である」と指摘するのみで、懸念には言及しない。

全国一律サービスについても、NTTが「特別な資産」を有しているにもかかわらず、日経は「その責務を今後もNTT1社に負わせるのは無理がないか」として、携帯各社や今後急速な発展の予想される衛星通信も含めて、「複数の事業者に提供責任を広げることで、より効率的で災害などにも強い通信インフラの実現をめざしたい」と説くのだが、理想論としてはその通りとしても、当面の対応としてはNTT寄りに過ぎた見方ではないだろうか。

同紙は「日進月歩の通信の世界で制度論にいたずらに時間を費やすのが生産的とは思えない」とするが、産経など3紙が指摘する国民の利便性と公正な競争環境の維持はNTT法廃止の前提であり、慎重な議論が必要だろう。

(床井明男)

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