自然科学への親しみの点で欧米に一日の長があると分かる「猫」特集

猫のイメージ写真(Photo by Roberto Huczek on Unsplash)
猫のイメージ写真(Photo by Roberto Huczek on Unsplash)

「猫」で20頁の大特集

日本で続くペットブームをにらんでかニューズウィーク日本版11月14日号は「最新科学が解き明かす本当の猫の気持ち」と題し、20頁の大特集を組んでいる。

動物行動学者のペーテル・ポングラッツ氏が行った「猫の認知研究」では、まず個々の飼い主たちに「あなたの猫はほかの猫の鳴き声をまねしますか?」などのアンケートを実施。その集計が終わった時点で、学生たちを猫が住む家に派遣し、実際の行動を観察させた。こうして2018年に発表された論文は「人間と良好な関係を結ぶ猫の能力に新たな光を当てた」と評価された。

論文は「猫は驚くほど巧みに人間の視線を追い、人間の意図を推し量る。室内飼いの猫と外飼いの猫では生活様式の違いから、認知に大きな違いが出ることも明らかになった」「猫は人間に好意を持っている。それどころか、私たちを愛している。犬に比べて愛情表現が分かりにくいだけ」など猫の認知力を主眼とした内容だ。

また、米ミネソタ大学の研究チームは約4000人の米国人に対し20年にわたり粘り強く追跡調査を行い「猫を飼っている人は飼っていない人よりも心臓発作による死亡リスクが30%低いことが分かった」(「快適な添い寝を実現する方法」の項)という。別の英国の研究チームが行った実験結果では「10匹の猫がさまざまな場面で発した鳴き声を録音して、50人の被験者に聞かせたところ、彼らは猫が食べ物を欲しがっているときの鳴き声と、それ以外のときの鳴き声を区別できた」ことなどを明らかにした。

ただしタイトルに「最新科学が解き明かす」とあるが、記事からはよく見えてこない。「食べ物が欲しいときの猫の鳴き声は、周波数が220~520ヘルツで、人間の赤ん坊の泣き声と同レベル」「人間は遺伝子的に、赤ん坊の泣き声を聞くとそちらに注意を向けるようプログラムされている」という、米ワシントン大学のジョナサン・ロソス教授(生物学)の解析法などがそれに当たるか?

猫認知は新しい学問

記事は、猫の認知能力に対する最近の研究成果、知見をまとめたもので、人間と猫の“共感”のほどがうかがえる興味あるものだ。猫の本能だけで成せる業なのかどうか、さらに今後の研究が待たれる。

記事にあるように、こういう論文をものにするには、猫の飼い主たちに対するアンケートや聞き取りなどフィールドワーク的な広範な調査を行いデータを集めることが必要になってくる。研究者の活動に対する一般市民の協力ぶりが見えてくる。

英国で1900年代に始まった科学(いわゆる西洋科学)は、われわれの生活と切り離された特別な領域を対象としたものでなく、広く人々が関心を持っているものの中から真理は掘り出されるという形だ。それに対し、日本では科学や学問的研究は日常生活より一段高い所にある営みで、一般の人はその実を享受すればいいという、ある意味受け身的な立場で済ませているような気がする。NWの記事は日本人による研究成果も織り交ぜているが、自然科学に対する親しみ度という点で、欧米の人々に一日の長があることを感じさせる内容でもある。

動物の認知力AIに

一方、「認知能力」に対する研究は学問的にずっと心理学の対象だったが、20世紀中ごろ、人間の認識や認知能力は医学、通信工学などの対象となり、この間、「人工知能(AI)」という言葉や概念が現れ、今日、一気に人間に近いAIの機械を生み出そうという気運が世界を取り巻いている。しかし、人間の認知機能とAIのそれとの間には、犬、猫などの動物や生物一般の認知能力の段階があるはず。AI研究は、人間の知能を見据えながら、動物の認識機構を間に挟めば、AIに対する新たな知見が生まれ、応用範囲も広がるのではないか、というようなことも考えさせられる。

(片上晴彦)

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