「サラリーマン記者が牙剥かぬ」と、テレ朝の旧ジャニーズ検証番組

ネットで情報を調べる人たちのイメージ(Photo by camilo jimenez on Unsplash)
ネットで情報を調べる人たちのイメージ(Photo by camilo jimenez on Unsplash)

「性」のニュース続出

明日から師走。1年を回顧するテレビ番組が多くなる。一足先に振り返ると、「性」に関する大ニュース続出の1年だった、というのが筆者の印象だ。

今年3月、英BBCが故ジャニー喜多川氏による性加害に関するドキュメンタリーを放送。6月には、LGBT理解増進法が施行された。先月は、最高裁が戸籍上の性別変更要件の一つ、生殖能力を失わせる手術に「違憲」判断を下した。これまでタブー視されてきた性が公共政策の重要課題になるとともに、国民一人ひとりに深く考えることを迫る時代になったと言える。

テレビ業界は旧ジャニーズ事務所(現SMILE-UP.)問題への対応で大揺れだった。公共財の電波を使い、権力監視の役割を担う報道機関でもあるテレビ各局が、エンタメ業界の“帝王”として絶大な権力を持った喜多川氏と事務所に対しては、社の利益優先から忖度(そんたく)し、何十年にもわたり性加害を追及してこなかった。この「メディアの沈黙」が被害を拡大させたのだから、テレビも「共犯」と厳しく責任を追及する声もある。

各局が検証番組放送

このため、NHKは9月、検証番組を放送。続いて民放キー局も日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ東京が10月に順次同じような番組を流し、信頼回復に努める姿勢を示した。総じて、旧ジャニーズ事務所所属タレントの出演交渉を有利に運ぶため同事務所に忖度したことが一定程度あった。これに男性から男性への性加害に対する問題意識と人権意識の低さなどが重なって「メディアの沈黙」につながったという。男性への性加害についての認識の甘さは社会全体に言えることだが、公共性の高い事業に携わるテレビ局員と一般国民を同列に考えることはできない。

最後に残っていたテレビ朝日が11月12日、局員やOB103人にヒアリングを行った結果をまとめて検証番組を放送した。しかし、個別の番組と旧ジャニーズ事務所との関わりなど具体性に乏しく突っ込み不足の感は否めなかった。

まとめとして「旧ジャニーズ事務所のキャスティングや交渉には、歴史的に編成や制作の幹部が動くことが多く、そのために『忖度する』という局内の空気が醸成された」という。報道局がエンタメに力を入れる社全体の空気に飲まれたというわけだが、何か他人(ひと)事のようで、再発防止の本気度が伝わってこなかった。

「日本には『抗空気罪』という罪があり、これに反すると最も軽くて『村八分』刑に処せられる」「『空気』とはまことに大きな絶対権を持った妖怪である」。著書「『空気』の研究」で、空気に弱い日本人論を展開したのは評論家・山本七平だが、テレビ局も同じというわけだ。

報道機関としての公的使命か民間企業としての利益追及かという課題は新聞業界も抱えるジレンマだ。しかし、公共財の電波を使用するテレビにはより公共性が求められる。業界全体に若者のテレビ離れに対する焦りがあったのだろう。後発のテレ朝には特にその空気があったことがうかがえる。

忖度では生き残れぬ

テレ朝は今年3月、「コンテンツの価値を最大化する」中期経営計画を発表。その一環として、東京・有明地区にエンタメ施設「東京ドリームパーク」が着工、26年開業予定だが、その目玉が「ジャニーズ劇場」だという臆測が流れている。真偽はともかく、エンタメ事業に社を挙げて取り組むのは事実で、旧ジャニーズ問題で反省の姿勢を見せたとしても今後、報道機関としての役割が相対的に軽視されることも想定される。

番組の中で紹介された元ニュース番組デスクの言葉が印象に残った。「ジャニーズ事務所に力がある時に、社会部の一記者が牙をむいて伝えなきゃという雰囲気はなかった。サラリーマン記者がそういう記事を書く勇気というのはうちに限らず民放は特になかったと思う」

テレビ離れだけでなく新聞離れも著しい。特に若者はネット重視だ。社の空気に流され、忖度ばかりしているようなサラリーマン記者が増えたのではどちらも生き残れないだろう。(森田清策)

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