物価高のマイナス成長に賃上げ・投資増求めるも円安阻止言わぬ各紙

都市のイメージ(Photo by Vlad Busuioc on Unsplash)
都市のイメージ(Photo by Vlad Busuioc on Unsplash)

企業の事情に無頓着

16日付日経「企業の賃上げと投資増の機運を絶やすな」、17日付読売「内需拡大へ企業は利益還元を」、産経「民間主導で内需牽引せよ」、18日付毎日「暮らし底上げする政策を」、20日付本紙「物価高対策で内需の回復図れ」―。

2023年7~9月期の国内総生産(GDP)速報値が、実質で年率2・1%減と3四半期ぶりのマイナス成長となったことを受けて各紙が掲げた社説見出しである。朝日、東京はなし。

マイナス成長の主因は、物価上昇に賃金の伸びが追い付かない物価高の影響だ。設備投資の低迷も、物価高による資材高騰の影響が少なくない。

このため、必要なのは物価高に負けない賃上げ・投資増とそれを支援する政府の政策、そして物価高を食い止める政策であろう。

そうした点からみると、産経はほとんどが民間企業への注文。「何よりも重要なのは民間の取り組みだ」として、「賃上げや設備投資の機運を維持できるかどうかが問われる局面だ。積極的な経営で内需を牽引(けんいん)し、経済の好循環を確実に果たしたい」とした。

上場企業の最終利益の合計が今年度の通期では過去最高になるとみられるとして、「持続的な賃上げの環境は整ってきたはずだ」というわけで、設備投資も日銀短観では大幅な伸びが見込まれたが、実際の投資には結び付いていないと。その通りだが、企業にもそうしにくい事情があるのだろうが、それには無頓着だ。

理由を指摘した読売

その点、読売は24年3月期決算で上場企業の最終利益が3期連続で過去最高になる見通しと指摘しながら、「それが、国内の経済成長に反映されないのはなぜか」と問う。

読売はその理由を、①製造業の生産拠点の多くが海外に移ったため、そこで得た利益は海外で使い、国内の投資に回していない②先行きを不安視する大企業が内部留保を積み増している③好業績が中小企業には波及していない可能性もある―などと指摘。政府に対し「企業業績の向上が国内景気の浮揚につながらない構造的な要因をしっかり分析し、経済政策に生かしていく必要がある」とした。

産経より一歩踏み込んでいるが、本当に構造的な要因ならば改善はすぐには期待しにくいことになる。そうした要因はあるにせよ、程度の問題ではないか。かく言う読売も、結局は「業績が好調な企業は、来年の春闘で、稼いだ利益を従業員に最大限、還元していくことが求められる。脱炭素や省力化に向けた国内への投資も怠るべきではない」と産経と同様の主張である。

投資に願望調の日経

日経は個人消費と設備投資の停滞が「気がかり」とし、「所得の伸びが物価上昇に追い付かないなかで『値上げ疲れ』がにじむ」として消費の力強い回復には「来年も積極的な賃上げが続くことが大前提」と強調。設備投資については「資材価格の高騰のほか、人手不足も制約要因になっているのだろう」としながらも、「企業は未来につながる投資に踏み込んでほしい」と願望調である。

また政府の経済対策に対して同紙は、短期の痛み止めに偏るとして、「民間の自発的な成長への取り組みを引き出す工夫が求められる」としたが、現状の日本経済には物価高対策の痛み止めは大事で、相応の手当が必要だろう。

毎日は「暮らしを底上げする政策」を求めたが、要は持続的な景気回復へ個人消費の活性化が欠かせないとして、「賃金を本格的に引き上げること」を求めた。産経や読売と同様、多額の利益を得た企業は来年の春闘などで社員にしっかり還元すべきだとし、「鍵を握るのは、雇用の7割を占める中小企業に賃上げをどれだけ広げられるかだ」と強調した。尤もである。

ただ、これ以上の物価高を招かないよう円安の進行に断固とした政策を取ることも重要と思うが、本紙以外にそうした主張がないのはなぜなのだろう。(床井明男)

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