
共産体制維持を優先
米中首脳会談が11月15日(日本時間16日)、米西部カリフォルニア州サンフランシスコ郊外で1年ぶりに開かれた。そこでは偶発的な軍事衝突を避けるため国防当局同士の対話再開で合意したというが、台湾問題や米国の対中輸出規制については平行線のまま。両国の溝の深さを改めて浮き彫りにしている。それでも近年の中国の国内事情を垣間見ると、強気の対米姿勢を貫くことはできない事態になっていることが分かる。
そうした中国の内情を週刊東洋経済(11月18日号)が「絶望の中国ビジネス」をテーマに特集している。かねて中国の不動産市況は深刻な状況になっていることは周知の事実で、かつての日本の失われた30年の二の舞いを演じることになると危惧されているが、東洋経済は中国での投資ビジネスが今は立ち行かないことを分析し、警鐘を鳴らしている。
「李克強前首相の突然の死、日本人駐在員の逮捕など不吉なニュースが続く中国。国家安全を優先し経済成長が鈍化する『世界の市場』から(外国)企業が逃げ始めた」というのである。ここでいう国家安全とは通常の国家安全保障ではない。中国にとっての国家安全保障とは、「『政権の安全』、つまり共産党統治体制の維持なのだ」(同号)とのこと。
これまで中国は経済成長を重視し、共産主義体制下の市場経済導入という矛盾した経済政策を取ってきたが、覇権主義を進める上で大きく舵(かじ)を切り、一党独裁を柱とした国家主義的施策を推し進めようとしている。それが証拠に今回の米中首脳会談でバイデン大統領が、習近平主席を「独裁者」呼ばわりしたのである。
取り締まる対象拡大
そこで独裁政権を後押しする政策の一つが反スパイ法の改正。同法は2014年に施行されているが、今年7月に改正された。そのポイントは、国家機密だけでなく国家の安全と利益に関わる文書やデータ、資料、物品などが取り締まりの対象になった。もっとも、国家の安全と利益は何かという定義はなく、極めて曖昧形で範囲が拡大されていることも問題だ。
また、スパイ行為の通報は国民の義務とされ、当局は疑いがあれば外国人であっても所持品の検査が可能だというのである。元来、共産主義社会は監視と密告が当たり前の世界であり、自己批判を強要する体質を持っている。今回の改正は、そうした共産主義の体質が顕著に出てきたものと言える。
さらに中国では個人情報保護法という名目の下、個人データの取り扱いや移転について、国外への持ち出しには当局の承認を受ける必要があるという。当然のように聞こえるが、例えば中国にある日本企業の子会社が持つ社員や取引先のデータを本社に送る場合も国外移転となり、当局の許可を得る必要がある。これに違反すれば反スパイ法で摘発されることになるが、そんな体制下で企業が迅速で円滑な事業運営を行うのは難しい。15年以降、反スパイ法の疑いで拘束された日本人は17人に上り、そのうち5人が今もなお服役・拘束中である。
投資先シフトの動き
従って、中国当局の強圧的な政策を嫌うのは決して日本企業だけではない。米国はもちろん欧州の企業も投資先を中国から他国へシフトする動きが活発になっている。
「(欧米企業は)企業買収だけでなく、中国に進出した企業の技術が強制的に移転させられることが警戒され、…危機感を覚えている」(同誌)というのだ。結局、東洋経済は「かつて中国は日本企業にとってグローバル化の飛躍台だったが、その動きが逆回転を始めている」と結論付けている。
共産主義体制を背景に持つ習近平一党独裁政権が、かつての明帝国を夢見て覇権国家の実現に舵を切ろうとすれば、より独善的な外交政策に向かうのは必至。そうした中国の動きを注視しながら日本は自由主義陣営との連携を強めていくことが今、求められている。
(湯朝 肇)