知日派韓国人お勧めの観光スポット
七福神に見る日本人の宗教観
コロナ禍が収まり、海外からの観光客がどっと日本に押し寄せている。観光地ではキャパシティーを超える外国人観光客らによる日本マナーを理解しない振る舞いが目に余ることなどから「オーバーツーリズム」という悲鳴まで上がっているほどだ。
外国人観光客で一番多かったのが韓国人で今年1月から8月までに432万人、約3割弱を占めている。つい数年前まで「反日キャンペーン」をしていた国とは思えない数字だが、韓国人にとって日本はそれほど魅力ある国に見えているということだ。
月刊中央(11月号)で劉(ユ)敏鎬(ミノ)氏が「日本観光のためのガイド」を書いている。劉氏は延世大を卒業しテレビ局に勤めた後、松下政経塾(15期生)で学び、現在は米国でエネルギー・ITコンサルティング会社「パシフィック21」のディレクターを務める知日派だ。同氏はしばしば韓国誌に日本関連の原稿を寄せている。
韓国人の日本旅行には特徴があると劉氏は分析する。まず再訪問率の高さだ。約7割がリピーターだという。日本人の韓国再訪率が約3割なのに比べると非常に高い。その理由を「飽きのこない国」だからだと劉氏は分析する。見どころがたくさんあるということだ。
第二に旅行者の「半分以上が20代」の若者だということ。「30代が3割台で、残り2割が40代以上の壮年」だという。圧倒的に若者が日本を訪れている。アニメの影響が大きく、キャラクターグッズを求めたり、舞台となった「聖地」を訪れたりする旅行者が多い。
こうした中で劉氏はせっかく日本を訪問するのであれば「何を見に行くか」が重要だと説く。「観光」という言葉は明治の日本人が「ツーリズム」を訳す際に中国古典から引用した造語であることを紹介し、もともと王の命により視察して復命することだったと説明する。観光とは何かを学ぶ「修学」旅行に通じているというわけだ。
「その延長線上で、日本を理解・探求する素材」は何か。劉氏の一押しが「七福神巡り」だという。「宗教を理解すればその国と国民、その地域と居住民の姿が一目で入ってくる」のがその理由だ。確かに、世界を理解する上で宗教は重要なキーワードである。イスラエル・パレスチナ紛争やロシア・ウクライナ戦争の背景には宗教がある。それも一神教だ。
韓国も「日本に比べて一神教思想が強い。私が信じる神以外は異端で悪だ」という傾向が強い。民族性もあるが善と悪をはっきりさせる。そして「オール・オア・ナッシング」で一方に集中する傾向がある。K―POPが世界的に流行すれば、我も我もとガールズグループに入りたがる。もともと「人はソウルに送れ、馬は済州島に送れ」というほど、立身出世しようとすれば都一択なのである。現在もソウルの大学を出ていなければ就職が難しい(満足のいく就職ができない)。その結果、格差社会ができる。一極集中でソウル首都圏に韓国人口の半分が集まっている。
彼らから見れば「八百万(やおよろず)の神々」を信じる日本は「三流迷信のいんちき宗教」とか「雑教」に見える。だが、それは白か黒かの窮屈な社会とは違った、多様性や個性を認める自由な社会であり、「多様性は日本宗教が持つ最も大きな特徴」なのである。
そこで日本の宗教の何を見ればいいか。劉氏は「谷中の七福神巡り」が「最高・最適」だと推薦する。これには異論があろうが、劉氏が日本滞在時には上野・浅草近辺にホテルを取ることから親しみがある地なのだろう。自転車で回れる距離に寺社が集中している。
恵比寿を除いて皆外来の神であることや、他の神を拝めば嫉妬する神々ではなく、同じ船に乗って安寧、長寿、福をもたらす七福神は「韓国式思考とは全く違う世界観」だ。それが「良い悪いではなく、別の世の中があることを知ることだけでも、自分の世界を一層豊かにできる」と意義を説いている。
世界は多様性を言う割には不寛容で、一神教の世界では争い事が絶えない。七福神に象徴される日本の宗教観、世界観を学ぶ旅行の勧めを韓国人はどう受け止めるか。旅行者数が示しているだろう。
(岩崎 哲)