邦人不当逮捕、朝日の「中国政府要人と会う」だけでは止められない

中国の習近平国家主席(UPI)
中国の習近平国家主席(UPI)

相当の覚悟問われる

アステラス製薬中国法人の日本人社員が3月、反スパイ法違反などの容疑で拘束され、軟禁状態で半年以上、取り調べなどを受けた後、先月、正式に逮捕された。

これに対し日経は10月15日付社説「中国は説明なき邦人拘束を直ちにやめよ」で、「中国は7月に改正『反スパイ法』を施行した。『国家の安全と利益』にかかわる情報のやり取りをすべて『スパイ行為』として摘発できる内容だ。これでは当局の恣意的な判断で、だれもがスパイに仕立て上げられるおそれがあると言わざるを得ない」と糾弾した。

朝日は10月22日付社説「中国の邦人逮捕 交流はばむ『反スパイ』」で、「事態の打開には習近平政権の上層部に働きかけるほかない。日本政府には、中国首脳と会う機会を早急に設け、強く主張するよう求めたい」と主張した。

だが、今回のスパイ罪適用による中国側の逮捕劇でわが国に問われるのは、相当の覚悟だ。スパイ防止法などをきちんと整備した上で、中国側が無理筋のスパイ罪適用に動くなら、日本側も相応のペナルティーを科す法的根拠を作り上げないことには、中国側の一方的摘発と逮捕の連鎖を止めることは難しい。

習氏の意思の下動く

韜光養晦(とうこうようかい)路線を捨てた中国に国際ルールを守らせるには、言葉を尽くすだけでは足らず、ルール違反に動いたら中国側も痛い目に合う鞭(むち)を持つ必要がある。

そして何より、無辜(むこ)の日本人が一方的に中国の公安から目を付けられ檻(おり)の中に放り込まれるような事態になれば、ただちにその中国にイエローカードを突き付ける覚悟と腹を決めることだ。

なお朝日は社説掲載前日の21日付11面で、「『スパイ』で外国人拘束 でも外資は誘致したい」との外報記事で、「国家安全」の名の下、外国人を相次ぎ拘束する一方、景気減速で苦しむ中、外資導入に躍起になっているという矛盾の背景には、「行政の『縦割り』構造がありそうだ」と書いた。

だが、共産党一党独裁政権の中国において、公安と経済を担当する部局の縦割り構造による矛盾露呈という図式で見るのは少々無理がある。

通常、縦割り構造に亀裂が入るのは、相手の干渉を受けない、それぞれ独立した権力構造にあるケースだ。しかし、中国のピラミッド型権力構造において頂上にあるのは共産党であり、さらに終身総書記さえ可能にした習氏がその頂上に立っている。

いわば習氏の意向が共産党の意向であり、共産党の意向が国家の意向となる基本構造が存在する。そうであるならば、外国人拘束に走る公安の動きも外資導入に積極姿勢を示す経済部門の動きも一つの意思の下に動いていると見るべきだろう。

要は共産党および習氏が、「国家安全」と経済発展のバランスをどうとるかによって、その線引きが変わってくるだけの話だ。「国家安全」を主にもってくれば、経済は従にならざるを得ないし、経済を主にもってくれば外資との摩擦を避けるため「国家安全」が従にならざるを得ない。

「闇」を覗いた可能性

ただ、今回のアステラス製薬社員の逮捕で気になるのは、同社員が「闇臓器移植」の実態に触れた可能性があることだ。

普通のサラリーマンがスパイ活動に従事するというのは、通常は考えづらい。しかも同社員は中国勤務歴20年のベテランだ。その一介のベテランサラリーマンが、敢(あ)えてそのようなリスクを冒すことはまずしない。

アステラス製薬は免疫抑制剤「プログラフ」を販売している。「プログラフ」は臓器移植後の拒絶反応を抑制する効果があるとされ、その販売を担当する同社員が中国の「臓器移植」の闇を覗(のぞ)いてしまったのではないかというのが巷で取りざたされている。

考えられるのは、中国政府が「闇臓器移植」という中国医療世界の暗い恥部が暴露されることを恐れ、同社員の行動の自由を拘束したというものだ。なるほど、こちらの方が余程か可能性が高い。

(池永達夫)

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