原告弁護団に海渡氏
久しぶりに新聞紙上で海渡雄一弁護士の名を目にした。社民党の党首、福島瑞穂氏の「事実婚」の夫で、左翼過激派「中核派」との関わりがネットなどで取り沙汰されている人である。朝日10日付福島版に東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出差し止め訴訟の原告側弁護団の一員で登場していた。
記事によれば、差し止め訴訟は福島地裁と印紙代を巡って争いになっているという。原告は放出の実施計画など4点の差し止めと東電に対して「放出するな」の1点を加え原告1人当たり160万円の支払いを求めたが、地裁は請求がそれぞれ異なるとし、5点の請求額分の印紙代が発生するとした。それで審理が止まっている。海渡氏は9日、憤りの記者会見を開いた。
この日は福島県内から避難した人や各地の漁業関係者らが新たに加わり、原告数は計363人になった。朝日に載った原告らの福島市内でのデモ行進写真を見ると、横断幕に「ALPS処理汚染水」とある。日本共産党の機関紙「しんぶん赤旗」ネット版10日付に同様の記事があり、こちらは「汚染水(アルプス処理水)」と記す。いずれも「汚染水」で、この表現から原告らの背景が知れる。左翼勢力の一員か、勧誘されて「被害者」になった人たちなのだろう。
過激派の影ちらつく
これを地元2紙(福島民報、福島民友)が大きく掲載していると思いきや、全く逆だった。民友は全国ニュースを詰め込んだ第3社会面の1段見出し記事で写真もない。まるで福島とは無関係のような短報扱いだ。県民の多くは処理水放出を容認し、「風評被害」の封じ込めを願う。その最中に中国共産党ばりに「汚染水」と叫ぶ人たちの尻馬に乗るのは許されないからだろう。
なにせ原告らの背後には過激派の影がちらつく。彼らは70年安保闘争の挫折後、オイルショックで推進に拍車が掛かった原発に狙いを定めた。中核派は「第2、第3の成田闘争を無数に現出させる」と気勢を上げ、愛媛県伊方原発では「伊方原発を考える市民の会」をつくり反対闘争の主導権を握った。海渡氏が所属する東京共同法律事務所のホームページによれば、同氏は81年から原発訴訟に携わっており、中核派の動きと符合する。
経済ジャーナリストの石井孝明氏は産経5日付「新聞に喝!」で、「『原子力は悪』の単純報道に思う」と題し山口県上関町を取り上げている。中国電力と関西電力が使用済み核燃料の中間貯蔵施設の建設調査の計画を提案し、今年6月に同町は受け入れたが、反対派が妨害している。
「上関町では1980年代から原発計画があったが、福島の事故以来止まった。一部の全国紙と地元紙は、同町では原発誘致の賛成派が多数なのに『分断』と『対立』と報道し続けた。13年前に現地で取材したことがある。町外の政党関係者、反対団体メンバー、東京の一部メディアが町を闊歩し、反対派の意見を伝える新聞記事のコピーがばらまかれ、ある町民は『静かに話し合える状況ではない』と嘆いていた。その状況を再び作ろうとしているのか」
「共闘」呼び掛け断る
福島では地元紙が冷静だった。震災直後の2012年に沖縄で開催されたマスコミ倫理懇談会の全国大会で沖縄2紙(琉球新報、沖縄タイムス)が沖縄に米軍基地が存在することを「差別」とし、福島も原発が押し付けられている「差別」と断じ、「差別」と戦う“沖縄・福島共闘”を呼び掛けたことがある。これに対して福島民報は「原発も基地も国全体で考えるべき問題だ」(同年10月5日付社説)として共闘を断った。民友も同様の姿勢を示した。
原発を巡る訴訟だけでなく、各種訴訟で左翼弁護士が活動家と結託して「被害者」を増やしていく法律闘争が散見される。どこかで見た光景だが、新聞がその正体を見極めないと、たちどころに彼らの術中にはまってしまう。処理水の海洋放出差し止め訴訟はこの危険性を改めて想起させた。(増 記代司)