ハマスのテロ巡りブレまくる岸田外交を叱る飯山氏のNW日本版コラム

ハマスのテロリストによって破壊されたイスラエルの車=5日(UPI)
ハマスのテロリストによって破壊されたイスラエルの車=5日(UPI)

攻撃をテロと呼ばず

イスラム過激派テロ組織ハマスによるイスラエルへの攻撃に対して、岸田政権の認識がブレまくっている。10月7日、突如ハマスがイスラエルに大規模テロ攻撃を仕掛け、キブツ(農業共同体)や音楽フェスを襲撃し、外国人を含む女性や子供を惨殺、人質にとって拷問、強姦(ごうかん)、殺戮(さつりく)を行った。

直ちに世界中からこの大虐殺を非難する声が沸き上がったが、岸田首相の反応は翌日の8日になった。岸田氏はSNSで「ハマス等パレスチナ武装勢力が、ガザからイスラエルを攻撃しました。罪のない一般市民に多大な被害が出ており、我が国は、これを強く非難します」とアップした。

これに噛(か)みついているのがイスラム思想研究者の飯山陽(あかり)麗澤大学客員教授である。飯山氏はニューズウィーク日本版(11月7日号)のコラム欄でこう書いた。「ここで岸田氏はハマスの攻撃をテロと呼ぶのを避けている」とし、「日本以外のG7各国首脳は全てこれをテロと断じ、どんな正当化も許されないと強く、明確に、何度も表明している」と批判した。

岸田氏は8日の書き込みでこう続ける。「ガザ地区においても多数の死傷者が出ていることを深刻に憂慮しており、全ての当事者に最大限の自制を求めます」と。まるで当然、次に予想されるイスラエルの報復作戦も「ガザ地区で犠牲者が出る」から自制せよとして、「中立」の立場に立とうとしているようなのだ。

これに飯山氏はカチンときた。「何を言っているのか!」という声が行間から伝わってくる。実際に飯山氏は自身の動画配信サイトで何度もこの岸田政権の態度を批判しているので、誌面の裏側からその声が聞こえてくるようだ。

国とテロ組織同列視

飯山氏の論理は明快だ。「第1にテロは民主主義の大敵である」からテロは絶対に容認できない。「第2にハマスはテロ組織でありイスラエルは主権国家である」から両者を対等、同列に並べるのはおかしい。「第3にイスラエルは主権国家として、国際法上、自衛権が認められている」ので人質奪還やテロ組織制圧は正当な認められた行動だ、の3点を挙げた。

多くの報道ではイスラエル(主権国家)とハマス(テロ組織)を同列に置き、ハマスをガザ地区の認定された統治者のように伝えるが、ガザ地区を実効支配してはいるものの、決してパレスチナ自治政府やパレスチナ人を代表する機関ではない。

それに、ハマスの蛮行をテロと呼んでいないのは「中国やロシアといった権威主義諸国」だけで、それまで日本政府はその側に立っていたことになるのだが、5日後の12日になって、ようやく松野官房長官が会見で「テロ攻撃と呼称することにした」と改めた。

飯山氏はこれを、だから「当初はそうした認識がなかったということを自ら認めたのだ」と断じている。

「自衛権」について同誌は「編集部注」で「岸田首相は27日、マクロン仏大統領との電話会談でイスラエルに自衛権があるのは当然だと述べた」と末尾に付記したが、飯山氏が原稿を書いた時点では岸田政府の「自衛権」に対する認識が曖昧だったということだ。

国際情勢読み解けず

飯山氏は、「今の日本は客観的に見れば価値観のはっきりしない怪しい国である」とし、「中立やバランス外交は、国際情勢を読み解けない為政者の逃げ口上にすぎない」と切って捨てた。

人道的支援は分け隔てなく行われて当然だが、政治的スタンスは鮮明にしなければ、国際社会で日本はどっちの側かと疑われる。同じイスラム圏でもサウジアラビアなどは即、テロ行為を非難して旗幟(きし)鮮明にしていた。右顧左眄(さべん)して即座に態度を決めかねている岸田氏の姿勢はリーダーとしてとても通用するものではない。国会答弁でつっかえるのとはわけが違うのである。飯山氏の指摘が突き刺さる。

(岩崎 哲)

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