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首相の「所得税減税」に各紙「意義、効果、整合性に疑問」と批判の嵐

岸田首相(UPI)
岸田首相(UPI)

大きな問題含む表明

先月24日付産経「安全保障をもっと語れ/所得減税の必然性がみえぬ」、東京「一貫性も整合性も欠く」、25日付読売「意義も効果も疑問が拭えない」、朝日「国会論戦 形骸化許せぬ」、毎日「矛盾だらけの人気取り策」、26日付日経「野党の経済論議にも一理ある」、27日付本紙「所得減税の整合性見えず」―。

岸田文雄首相が与党の自民、公明に検討を指示した所得税減税に関する各紙の社説見出しである。列挙したように、リベラル系紙ばかりでなく、保守系紙もそろって批判の嵐で、ここまで論調がそろうのも最近では珍しい。

逆に言えば、それだけ首相の「所得税減税」表明が大きな問題を含んでいるということで、東京、毎日、読売の3紙は予算委員会での首相答弁を踏まえ、さらに「全体像描けているのか」(26日付東京)、「ちぐはぐさ隠しきれない」(27日付毎日)、「減税の効果と影響を吟味せよ」(28日付読売)と同じテーマで2度目の社説を掲載した。

国会の軽視も問題視

各紙が問題視しているのは、所得税減税の意義、効果、整合性についてと首相の国会軽視の姿勢である。

先に国会軽視を見ると、これは朝日と東京(26日付)、本紙が取り上げた。首相の所信表明演説に「所得減税」の言葉はなく、所信表明に対する各党の代表質問でも、最初に質問した立憲民主党の泉健太代表に「検討は認めたものの、泉氏の個々の問いには何ひとつ答えなかった」(朝日)のに、政府内では所得税などを1人当たり年4万円を差し引く定額減税を実施し、住民税非課税世帯には7万円の現金を給付する方向で調整に入っている。「これでは『議会を軽視した』との誹(そし)りは免れない」(本紙)というわけで、尤(もっと)もな指摘である。

所得税減税の意義、効果、整合性については、ほぼ全紙が言及した。「物価高に苦しむ国民への支援は大切だが、高所得者も含め一律に所得税減税を行う必要があるのか」(読売)という点である。

首相の指示を受けて議論を始めた自民党の税制調査会では、定額減税で実施期間は来年度の1年間となりそうだが、減税には法改正が必要なため実施時期は早くても来春とみられ、読売などは「即効性は乏しい」とし、日経は「効果への懐疑的な見方は与党内にもある」と指摘する。

象徴的なのは社説見出しに「野党の経済論議にも一理ある」とした日経。コロナ禍による国内の需要不足はほぼ解消し、大規模な対策を疑問視する指摘は的を射ていると評価し、日本維新の会の馬場伸幸代表の「最低限の物価高対策と生活困窮者への手当てを行うことが合理的だ。国の財布は政権維持のための打ち出の小づちではない」との批判を載せた。同感である。

何とも情けない現実

整合性についても、疑念は大きい。予算規模が拡大する防衛費や「異次元の少子化対策」の財源確保が課題で、「国民の負担増の検討が避けられない状況にありながら、減税をするのは、著しく整合性を欠く」(読売)からである。まして、毎年の予算編成で30兆円超の赤字国債を発行せざるを得ない中、当初の想定を上回る税収だからといって一部を国民に還元できる状況でもあるまい。「税収が増えた分は、まず借金の返済に充てるべきだ」(毎日など)との指摘は筋が通っている。

さすがに東京(24日付)の防衛費の増額を「軍拡増税」とする表現は適当でないが、「一時的とはいえ、1年足らずで減税へとかじを切るのは場当たり的で一貫性を欠く」との指摘は間違ってなく、「内閣支持率の低迷が続く中、窮余の人気取り策と批判されて当然だ」との批判も否定できないのは、何とも情けない現実である。

本紙も所得税減税の方針が衆参補選の2日前に示され与野党から「選挙対策」と不評を買ったことを挙げ、「場当たり的な人気取りにすぎないか、国民は厳しい目で見ている」と指摘したが、その通りである。

(床井明男)

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