通級児童ら増加傾向
作家の高村薫氏がサンデー毎日連載・サンデー時評で「子どもを大事にする政策に本気で取り組め」と題し「国の未来に直結している学校教育の現状について気になることが少なくない」と。「特別支援学校や特別支援学級を利用する医療的ケア児や障がい児がおり、通級(評者注・通常学級に在籍しながら、特性に応じた指導を受けられる教室)指導の児童と合わせると令和元年の資料で約48万6千人。義務教育段階の全児童生徒数が減少しているのに対して、こちらは顕著に増加している」ことを挙げている。
増加理由を文科省は「障がい児や医療的ケア児のための教育支援体制が整ってきたと同時に、保護者もきめ細かな支援を求めて特別支援学校・学級の利用を選択する傾向にあるため」としているが、高村氏は「一方で現状では教員個々の努力に頼っており、学校全体での通級指導の取り組みは十分でないと(文科省は)認めている」との見解も載せている。その上で「保護者の負担が大きすぎ、親は自身が社会的存在であることを日常的にあきらめざるを得ない前近代的な現実がある」。
「これらはすなわち社会全体で子どもを育てるという感覚の欠如であり」「この教育予算の少なさは、要は学校教育が大事にされていないことの分かりやすい証左であり、それはすなわち教員が大事にされていないことを意味する」と続けている。さらに「産めよ増やせよの少子化対策より、いまいる子どもを大事にするための学校教育の充実のほうがはるかに実のある子ども政策である。そのための国の歳出の見直しは必至だし、必要なら増税も議論されてよい」と一気に進めている。
「国任せ教育」を反省
だが、ちょっと待てよ、である。
戦後、われわれはわが国の義務教育制度を大いに恃(たの)んで、教育はむしろ国任せ、学校任せ、教師任せにすることが続いてきたのではなかったか。教科だけでなくしつけに関することなども学校を当てにすることが多く、学級崩壊や非行問題を起こしたりした。
その反省から東京都は平成31年には学校教育(義務教育)の方向として、「『地域と学校の協働』を推進する方策について」(都生涯学習審議会)を発表、地域を舞台に学校・家庭・地域の教育力を再構築する方針を決定した。人々とのつながりを通し「安心・信頼・支え合いのネットワーク」づくりを目指す活動を拡大させている。
一方、きめ細かな支援が必要な特別支援学校・学級の整備も進められている。今日、(公財)東京都教育支援機構TEPROなどでもさまざまなサポート活動が行われ、全国各地で同様の組織が立ち上げられている。
この間、地域社会の様相も劇的に変化。高齢化が進み、地域に住む人たちが退職後の社会貢献、また生きがいの一つとしてスポーツ・芸術活動、授業、講演などを通じ子供たちに接する機会が多くなっている。「子供たちは地域の宝、財産」という意識だ。それに対し「時評」で高村氏が指摘するように学校機関に資金を投入し、その働きをいわば万能化、聖域化させようとするのは、むしろ今の地域社会の動きに逆行するものとなるのではないか。
「寺子屋復活」待望も
また高村氏は「(教員の)長時間労働の改善」が進まないのは、「学校という場とそこで働く教員の意外な保守性があるように思う」「現状の変更を阻む閉鎖的な力があちこちで働いているように見える」とするが、その内容は明らかでない。
日経新聞10月6日「大機小機」欄で、「何かあれば(中略)文科省は実態調査ということで現場に報告を求める。その積み重ねが、先生が生徒に向き合う時間を奪い、世界で一番忙しい先生を生んでいる」と。その上で「先生が情熱を持って教育に取り組む」ことができる「寺子屋の復活」を提言、具体的だ。
(片上晴彦)