ICCからは逮捕状

ユーラシア大陸の東西を海と陸の回廊で結ぶ中国の巨大経済圏構想「一帯一路」が始動から10周年を迎え、北京で国際会議が開催された。ホスト役は習近平国家主席、メインゲストはロシアのプーチン大統領だった。その両首脳会談を各紙の社説は取り上げた。
各紙共通の認識は、ウクライナ侵略を巡る戦争犯罪疑惑で、国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出されているプーチン氏を、なぜわざわざ招いて厚遇したのかという非常識への非難だ。
読売は「不見識極まりない」(19日付)となじり、朝日も「国際法を踏みにじり、戦争犯罪の嫌疑がかかるリーダーとどれほど蜜月ぶりをアピールしても、国際社会の信頼は得られない」(19日付)とバッサリ切った。日経など他紙も同様のスタンスで、当然至極の常識的見解だ。
なお読売は同社説で、次のように続ける。「ロシアはウクライナ侵略で国力を低下させ、米欧日の経済制裁も受ける中、中国に頼らざるを得ない状況に追い込まれている。プーチン氏の言動は、ロシアが中国に従属している実態を映しているように見える」
2021年の統計を見ると、ロシアの貿易総額の18%が対中貿易なのに対し、中国にとって対露貿易の割合は2%でしかない。しかも、ロシアの対中輸出のメインとなっているのは天然ガスに石油、石炭といった天然資源。一方、中国の対露輸出の大半は、機械や電子機器などの工業製品で、ロシアが半導体から通信機器に至るまで技術輸入も中国に依存している実態を見ると、工業国・中国と資源国・ロシアの現実を如実に表しているのが理解できる。
中国が露の兄貴分に
産経は主張(21日付)で、「米研究機関などによると、ロシアは2017年時点で1250億ドルの対中債務を抱えている。中国はロシアに『一帯一路』向け資金の3分の1を融資してきたが、米欧の対露制裁でほぼ全額が不良債権化しており、中国に頭が上がらない“属国化”を指摘する声も出ている」とも書き込んだ。
兄貴分となった中国と弟分のロシアの関係は、1世紀前の中国共産党誕生史を知るものにとって実に隔世の感を覚える。
そもそも中国共産党は1921年7月、マルクス=レーニン主義を奉じるソ連のコミンテルン(共産主義インターナショナル)中国支部として上海で結成された経緯がある。これが世界で最初の支部となり、2番目の支部が日本共産党だった。コミンテルン創設の背景にあったのは、世界を共産主義化してこそ、ソ連の共産主義も安泰になるという発想によるものだった。
その立つ位置こそ変わった中露が、改めて連携強化に動いている。プーチン氏は習氏との首脳会談後、「共通の脅威はロシアと中国の連携を強化する」と述べ、両国で米国に対抗する姿勢を鮮明にした。核武装国家の中露は、国連で拒否権を持つ安保理常任理事国同士でもあり、安全保障と国際政治でも相互に利用価値があるとの基本認識がある。
西は力の空白作るな
なお毎日は社説(21日付)で、習氏が一帯一路会議で「平和協力、開放、互恵というシルクロードの精神が『一帯一路』建設の力の源泉だ」と語ったことを取り上げ、「その言葉の通りに、世界を平和に導こうとするのならば、まずは『力の信奉者』のごとき振る舞いを改めるべきだ」と説いた。
だが力の信奉者に対し、それを改めよと言っても意味がない。それに対処するすべを西側諸国に周知させることが肝要となる。そのすべとは西側諸国が力を合わせ、力の空白をつくらないことだ。
(池永達夫)