偽情報拡散の危険性
先週は新聞週間だった。標語は「今を知り 過去を学んで 明日を読む」。長野県軽井沢町で開かれた第76回新聞大会では、生成AI(人工知能)の登場で偽情報の拡散が助長され、言論空間の健全性が損なわれる危険性があるとして、次のような大会決議を採択した(読売19日付)。
「正確な報道と公正な論評を、人々に届け続け、健全な言論空間を守り育てなければならない。情報環境の激動期にあって、民主主義の発展に寄与することを誓う」
教科書にあるような決議文で白々しく聞こえる。偽情報の拡散はAIだけなのか、新聞に正確な報道と公正な論評があるのか、言論空間の健全性を自ら損なっていないのか。そんな疑問がもたげてくる。
ジャニーズ問題では系列テレビ局や広告など自社の利益を守るために「報道しない自由」(だんまり)を決め込んだ。そうかと思うと世界平和統一家庭連合(以下、教団)問題では大洪水のごとき反教団キャンペーンを張った。その一方で教団側の主張は「報道しない自由」を貫く。そんな具合にご都合主義が目に余る。
発表報道に終始する
左派紙は政府など行政による発表モノを伝える「発表報道」について、それに終始すれば権力へのチェック機能が働かないと主張してきた。それにも一理があるが、これもあまりにも恣意(しい)的である。
先に文科省が教団の解散命令請求を東京地裁に行ったが(各紙14日付)、これには発表報道に終始し、請求の中身については一切吟味しなかった。その発表報道によると、「(教団に)損害賠償責任を認めた判決が32件あり、169人の被害者に信者が行った献金勧誘、物品販売を違法と認定(賠償額など計約22億円)」「和解や示談を含めると約1550人、解決金などの総額は約204億円」という(朝日13日付)。
だが、この発表モノを違う角度から見れば重大な疑義が生じる。杉原誠四郎・元武蔵野女子大教授は本紙14日付で「(文科省のいう被害規模の)大部分は既に裁判で賠償額が確定して教団が弁償したり、和解や示談が成立した金額(人数)」と指摘し、「新たに被害を訴える人物が申告する金額がそのまま被害額になるわけではない。返金を求める正当な理由があって、それにも関わらず教団が支払わないときに、その金額が被害額になる…(文科省のそれは)途方もなく誇張された数字であり、印象操作だ」と異議を唱えている。
こういう見方は発表報道だけでは知り得ない。少なくとも公正報道を言うなら教団側の主張を報じてしかるべきだが、教団の開いた記者会見は、朝日と毎日は第3社会面の2段見出し記事で短報扱いだった(17日付)。第3社会面は悪く言えば、ニュースの掃きだめで、しばしば「報じましたよ」との言い訳紙面として使われる。言ってみれば「報じない自由」の一形態である。
死語に近い倫理綱領
そもそも新聞の公正報道は疑問だらけだ。かつて日本新聞協会に加盟する琉球新報と沖縄タイムスの両編集局長が日本共産党の機関紙「しんぶん赤旗」日曜版の1面トップに登場し、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を巡って同党との「共闘宣言」を行った(2017年8月20日号)。
こうなれば、もはや特定勢力の機関紙である。教団報道はこの政治闘争と二重写しになる。共産党系や過激派支援の左翼弁護士らが主導する全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の発表報道に終始しているからだ。
こうしてみると、新聞倫理綱領でうたう「記者の任務は真実の追究」も「報道は正確かつ公正でなければならず」も、もはや死語に近い。「記者個人の立場や信条に左右」され、「論評は世におもねらず」どころか、自らつくり出した世(世論)におもねっている。
その反省もなくAIによって偽情報の拡散が助長されると主張しても説得力はない。今年ほど白々しい新聞週間はなかったと苦言を呈したい。
(増 記代司)