規定の解釈が争点に
「(昨年の)臨時国会が始まる前、統一教会には『解散命令は適用できない』と閣議決定していた。それをひっくり返させるのをどうするかというと、今までは文化庁が『信教の自由が大事だ』と、一つの役所で考えていたのを改めて、岸田政権全体、内閣法制局や法務省も呼んでみんなで議論したら、宗教法人法の解散命令に、民法の不法行為も適用できると考えを変えたと言ったらいい。そこの部分は追及しないから、と言ったら、岸田総理はその通り言った。これも“嘘(うそ)”なんですよ」
SNS上で今、立憲民主党の参院議員、小西洋之氏が世界平和家庭連合(旧統一教会)批判の急先鋒ジャーナリスト、鈴木エイト氏を相手に、こんな自慢話をする動画が拡散している。今年8月に行われた映画の上映会後のトークイベントでの発言だ。
教団の解散命令請求問題で争点になっているのが、宗教法人法にある解散命令に関する規定の解釈。解散命令の要件としては81条1項1号に「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと」とある。また2号には「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をした」とあり、この規定から見て教団の解散命令請求は妥当か、という問題だ。
これについて、政府は昨年10月14日、教団には「請求できない」と閣議決定。小西氏の質問主意書への答弁書(同日付)も同様の内容だった。そして18日の衆院予算委員会で、岸田首相は同1号にある「法令違反」について、民法の不法行為は「入らない」と答弁した。しかし、翌19日の参院予算委員会で、民法の不法行為も「入る」と答弁を一転させた。
示し合わせ国民欺く
冒頭の小西氏の発言は、官邸と掛け合い、首相に嘘を言えと知恵を授けて答弁を「ひっくり返させた」のは自分だという自慢話だ。実際、19日の首相答弁に対して、野党は「朝令暮改にもほどがある」と一応批判してみせたが、それ以上は追及しなかった。
小西氏と言えば、かつて後輩議員が質問通告しなかったことで予算委員会がもめていた時、その議員に「嘘でもいいから」事前通告したと言えと指示したことで批判を浴びている。一度、閣議決定した内容を、文化庁だけで決めたというのは明らかな嘘だが、冒頭の発言も自分の手柄にしたいがための「嘘」と勘繰ることもできる。
だが、閣議決定しながら一夜にして「政府として考え方を整理した」とした岸田首相の答弁はあまりに不自然で、恣意(しい)的な解釈変更との批判がある。通常、閣議決定した内容を変えるには再び閣議決定しなければならない。小西氏の発言は、首相周辺と野党議員が示し合わせて国民を欺いたことを疑わせるものだ。
文化庁の宗教法人審議会でも、首相が一夜にして法解釈を変えたことについては疑問の声があった。しかし、文化庁側は「(教団に何もしなければ)内閣が飛んでしまう」(産経新聞13日付)と、解散命令請求に向け突っ走ってきた。小西氏の発言が本当なら、それこそ内閣が飛んでしまうような大問題だ。
「裁判所も問われる」
ここまでは法の解釈変更の手続き上の問題。法解釈では、法令違反に民法が入る、入らないで意見が分かれる。その判断は東京地裁に委ねられている。
文部科学省が教団の解散命令を請求した13日夜放送のBSフジ「プライムニュース」。キャスター反町理氏は弁護士の髙井康行氏(元東京地検特捜部検事)に「難しい判断をしなければならない裁判官に求められるものは」と尋ねた。髙井氏は次のように答えた。
「法と証拠と論理だけに従う。世論、民意などいろいろあるが、司法は独立している。司法は権力から独立するのは当然だが、民意からもある程度独立しなければならない。国家と宗教、権力と宗教は微妙な関係にある問題だということをきちっと踏まえた上で、憲法の信教の自由、内心の自由を十分に尊重しつつ、なおかつこれはダメだ、これは社会的秩序を乱しているという行為を拾い出すという冷静かつ慎重な態度が必要。そういう意味では、統一教会も問われるが、裁判所も問われる。さらに言えば、日本の民主主義も問われる」
(森田清策)