毎日東京の2紙のみ
円相場が3日のニューヨーク外国為替市場で一時1ドル=150円台に下落後、すぐに147円台に急騰するなど乱高下した。昨年10月に一時151円台を付けて以降、約1年ぶりの円安・ドル高水準で、東京市場でも3日には150円直前まで下落した。
こうした円安進行に社説で論評を掲載したのは、毎日と東京の2紙のみ。150円台を付けたのが海外市場で一時的だったからか、他紙の掲載はこれまでになし。
弱者の痛みに“敏感”なリベラル系紙の本領発揮ということか。ともかく、消費を落ち込ませ物価高をさらに悪化させかねない状況だけに何とも寂しい限りである。
5日付掲載の2紙社説の見出しは、毎日「家計への副作用に警戒を」、東京「金融政策変更の潮時だ」である。
日米の金利差が背景
最近の円安について、毎日は「影響は深刻だ。日本はエネルギーなど多くを輸入に頼る。円安が進めば輸入コストが上昇し、物価高に拍車がかかる」と記す。
8月の消費者物価が前年同月比で3・1%と高止まりし、食品だけで10月に4000品目以上の値上げが予定されるなど「物価高が家計の重い負担となっているのは明らかだ」というわけである。
確かにその通りで、今回、円乱高下の背景として観測の広がった為替介入について、昨年9~10月は3度にわたって踏み切り「円安の加速を食い止めた」「市場の投機的な動きに断固とした措置で応じるのは当然だ」と評価するものの、「しかし、これは対症療法に過ぎない」とする。
日米の金融政策の方向性の違いが背景にあるからで、日米の金利差が拡大した結果、運用に有利な高金利のドルに投資マネーが集中している構図だと強調するのである。
そこで同紙は「この状況を一変させ、副作用を緩和するには政府・日銀の踏み込んだ対応が必要となる」と強調するのだが、その「踏み込んだ対応」とは何なのか。
首相が月内にまとめる経済対策を「一時的に痛みを和らげるだけでは十分とは言えない」と批判し、「何より求められるのは、物価高を乗り切れるよう、賃上げを通じて家計の体力を強めることだ。産業界も巻き込み、実効性のある対策を進めなければならない」と説くのだが、「実効性ある対策」が何かも不明で、要は「踏み込んだ対応」もはっきりしない。
しかも、円安の背景に日米の金利差拡大があると指摘しながら、肝心の日銀金融政策への指摘もない。竜頭蛇尾の感が免れず、結論の中身が漠然としているのである。
金融政策の変更主張
その点、東京は「政府・日銀は為替の過剰な変動を抑えつつ、行き過ぎた自国通貨安に歯止めをかける方向に金融政策のかじを切る必要がある」と指摘し、「為替介入に限界がある以上、円安の修正は金融政策に求める以外に道はない」と金融政策の変更をはっきりと主張している。
見出しの通り、「もはや10年以上続く大規模な緩和から本格的に抜け出すための第一歩を踏み出す潮時ではないのか」というわけである。
この点は同感なのだが、その具体例までは踏み込まず物足りなさが残る。日銀は7月末に、長短金利操作の柔軟化を決め緩和策の修正を行っているが、それを東京は変更とは認めていない。マイナス金利解除、長短金利操作撤廃、量的緩和の段階的縮小、政策金利の引き上げなどどこまで求めるのであろうか。
また、円安の様相で「輸出関連の大企業が相次いで好決算を出す一方、多くの国民が生活の質を落として節約に懸命に努める構図はあまりにいびつだ」とは、いかにも同紙らしい見方だが、一面的でステレオタイプに過ぎよう。
この点は、「輸出の強みの日本経済にとって円安はプラスと言われてきたが、最近ではマイナス面が目立つ。資源価格の高騰が続く中…」とした毎日の方が、円安の認識は確かである。(床井明男)