
南国の楽園が廃虚に
マレーシアとシンガポールの間のマラッカ海峡に面した海に巨大な人工島を造成し、高層マンション、高級住宅にショッピングモールなどを配して70万人都市「フォレストシティー」を建設する構想が進められている。中国の不動産大手「碧桂園」(カントリーガーデン)が手掛ける巨大プロジェクトだ。
しかし、この南国の楽園がゴーストタウン化しているという。たとえ建設が完了してもマレーシア人には到底手が届かず、何よりも、中国人の投機の対象となったり、彼らが大挙して住むようになったりすれば、隣国シンガポールにしても、喉元に同じようなガーデンシティーが誕生し、しかもそれが“中国の出先”となり得るとなれば穏やかではない。
ところが今、碧桂園が「大幅赤字に陥り、その社債もデフォルトの瀬戸際にある」というのだ。コロナ禍で建設がストップ、わずかに入っていた外国人入居者(中国人)もほとんどが退去した。
一方、中国本土でも2021年、恒大集団の経営危機、社債のデフォルトが発覚し、建設途中でストップしたマンション群が中国各地に放置され、債権者の悲痛な叫びが報じられている。
中国で不動産バブルが崩壊した。この様相にニューズウィーク日本版(10月3日号)が「日本化する中国経済」の特集を組んだ。中国経済の低迷は世界に「不況と不安の火種をまき散らす」ことになる。このバブル崩壊がかつての日本と同じなのだろうか。
「木内登英・野村総研エグゼクティブ・エコノミスト」は「日中『減速経済』の類似点」の記事で、「中国経済も長期低迷に陥るのではないかとの見方も浮上してきた」と伝える。「不動産不況が金融仲介機能(シャドーバンキング)の問題が注目を集め」ており、「中国版リーマン・ショック」を引き起こす懸念も出ている。だが、木内氏は「90年代の日本の銀行不安のときと同様におおむね国内にとどまり、世界に大きく波及することはないだろう」とみる。だから「リーマン・ショックの再来ではなく『日本化』に近い」との見方だ。
デモや暴動が激化も
これに対して、同誌はまったく反対の記事を続ける。「練乙錚(リアン・イーゼン)経済学者」は「決して『日本化』ではない」というのだ。
練氏は「ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン」を引用して、「日本は失われた数十年の間、労働年齢人口の1人当たり実質GDPはアメリカとほぼ同じペースで推移し、45%の成長を遂げ」たし、「14年以降は若い世代も含めた労働者の完全雇用を維持し」つつ、「世界最大の債務国でありながら財政が比較的安定し、デモや暴動などの社会不安がほとんどない」と指摘する。
その一方で、中国は「統計に表れないケースを含めると、若者の失業率は50%近くに達しているともみられる。しかも超成長期でさえ、年間数万件のデモや暴動が発生していた。中国が日本に似ているとは言えないだろう」というわけだ。それに、今後「健全な経済を維持するために必要な人的資本や適切な職業倫理の不足が予想され」ている。
練氏は「2023年の中国は1991年の日本とは違う。『中国は(当時の日本より)さらに悪い状態に陥るだろう』と彼(クルーグマン)は書いている」と記事を結ぶ。
習近平体制は安泰?
ただし、その習近平(国家主席)の中国はそうやすやすと倒れはしない。「景気後退でも習体制は安泰」の記事で「周景顥(ホバート・アンド・ウィリアム・スミス・カレッジ准教授)」は「間違いなく多くの中国人が、習体制への信頼を失いつつある。しかし、中国の中流階級は党の政策の最大の受益者であり、現状では党に反旗を翻そうとはしない」と分析している。
だとしても、住宅資金だけでなく、住む家もままならない中国人の怒りが爆発することはないのだろうか。遠くの南の人工島とはわけが違うのだが。(岩崎 哲)