風評防止と消費拡大を呼び掛け
「汚染水」使う政党・議員も
東京電力は先月24日、福島第1原発の敷地内にたまった処理水の海洋放出を始めた。原発事故から12年以上が経(た)ち、先送りされてきた処理水の問題がようやく動いたと言える。放出について、米国や韓国をはじめとする周辺国が支持を表明しているほか、太平洋島しょ国でも複数の国が一定の理解を示している。いずれも国際原子力機関(IAEA)の報告など、科学的根拠に基づいた判断だ。
一方で中国は激しく反発。放出開始後すぐさま日本産水産物の全面禁輸を発表し、「国民の生命と健康を守るため」と正当化した。中国メディアも連日、処理水を「核汚染水」と報道し、福島県内の飲食店や自治体、企業などには中国からとみられる嫌がらせ電話が相次いだ。また韓国でも最大野党が処理水問題を政権への攻撃材料として利用し、国民の不安と反日感情を煽(あお)っている。いずれも曖昧で過激な表現や明らかな誤情報に基づく「風評被害」である。
こういった動きに対する各政党の取り組みは機関紙にも表れている。まず、自民党機関紙「自由民主」は放出開始後から3週連続で、1面や最終面に処理水と風評被害に関する記事を大きく掲載した。9月5日号は1面で処理水の処分の必要性、科学的評価などについてQ&A形式で説明。9月12日号と19日号は最終面を使って風評被害対策と水産物の消費拡大への党の取り組みを説明した。
特徴的だったのは、最も目立つ見出しを「『#STOP風評被害』」「消費拡大で水産業を守ろう」とスローガン風にしたことだ。風評被害を乗り越えて福島の復興へ前進するためには国民の理解と協力が不可欠であり、党員らへ一番伝えたい内容として党の取り組みの具体的内容よりもこれらを大きくピックアップしたことを評価したい。
公明党機関紙「公明新聞」は、復興担当の所属議員へのインタビュー形式で処理水の安全性などについて説明する記事(9月3日付3面)を掲載している。一般紙の社説に当たる「主張」では「各種モニタリングで国内水産物の安全性は明白になっている。私たちも積極的に食べることで、水産業を応援していきたい」(8日付)とした。
処理水を「汚染水」と呼び、今も放出自体に反対する共産党は、機関紙「しんぶん赤旗」に抗議デモの様子や中止を求める記事を何度も掲載している。16日付3面には「汚染水(アルプス処理水)問題どこに」と題して処理水放出の「問題点」をQ&A形式で列挙した記事を大きく掲載した。
処理水を「汚染水」と呼ぶ根拠についても説明されているが、掲載された関連図からも記事内容からも、同党が多核種除去設備(ALPS)で処理される前の水と処理された後の水を別の性質のものとして区別していることが分かる。それなのになぜ頑(かたく)なに処理前と同じ「汚染水」という表現を使用するのか理解に苦しむ。紙面では「汚染水(アルプス処理水)」と表記しているが口に出せば同じである。
立憲民主党の月刊機関紙「立憲民主」は、処理水放出開始後に発行された9月15日号で、風評被害をはじめとする処理水に関する話題に全く触れなかった。立民は、泉健太代表が自身のSNSで、福島県産食品を購入し「食べて応援」する様子などを発信する一方で、「汚染水」という表現を意図的に繰り返し使う議員が複数いる。放出が始まった以上、風評被害の防止と福島の支援に注力する泉氏の姿勢は至って合理的なものだが、党内がその方向にまとまっていないのは誰の目にも明らかであり、残念だ。
(亀井 玲那)