一線越えたと認める
「ルビコン川を渡る」という故事がある。もう後戻りできないという覚悟を持って決断・行動するという意味で使われる。
古代ローマの将軍だったカエサルが、渡河を禁じられていたルビコン川をその禁を破って渡ったことで、彼の率いる軍団は敵対するポンペイウス率いる軍と戦って血路を開き、自らが独裁者になるほか道がなくなったことに由来する。そんな血なまぐさい時代を連想させる言葉が最近、「文化庁関係者」の口から飛び出した。
文部科学省が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対する7回目の「報告徴収・質問権」行使に対して、教団から回答があったと発表した8月22日。夕方のニュース番組「Nスタ」(TBS)は、この問題を扱った。
番組は10年ほど前に会員となり、献金や物品購入などで約1700万円使ったという元信者(70代女性)から話を聞いた。女性がこれだけの額を使ったのは、「先祖はみんな地獄にいる」「あなたが救いましょう」と言われたからだという。文化庁からは「しっかり調べて解散命令につなげたいから」と、3時間ほどの聞き取り調査を受けたとも語った。
わが耳を疑ったのは、番組がこうした元信者の“生の声”を文化庁が集める理由について説明した時だった。同庁関係者は解散命令請求に向け「もう後戻りはきかない」「ルビコン川を渡ってしまったから」と。さらに「請求は、結果がどうなるか、五分五分の世界。どちらに転ぶか分からない状態でやれることは全部やるしかない」と吐露したというのだ。
このコメントは重大だ。なぜなら、同庁関係者が越えてはならない一線を越えたことを自ら認めたも同然だからだ。
質問権は、宗教法人の解散要件である法令違反などの疑いがあった場合に行使される。これまで行使されたケースはなかったが、家庭連合に対しては昨年11月からこれまで7回繰り返されてきた。
だが、前出のコメントから判断すると、請求するに十分な材料は集まっていないことがうかがえる。ならば「請求できない」と判断すればいいだけだが、関係者が「もう後戻りはきかない」と、悲痛な心境を吐露するのはなぜか。番組はせっかく核心に迫るコメントを引き出したのに、そこには触れなかった。