指針改訂を巡り騒動
岩手県がまとめた「多様な性の在り方を尊重するための職員ガイドライン」改訂を巡る騒動だ。もともとこのガイドラインは令和3年2月、県若者女性協働推進室が策定したもの。そこでは「当事者が性自認に合ったトイレを利用することで、他の利用者から苦情が出る場合」があるので、その対応例として「様々な方が利用する施設であることを説明し、苦情を出された方に理解を求めましょう」とあった。つまり、「女性」を自認する身体男性(トランス女性)が女性用トイレを使った場合、それに苦情を言った側に「理解」を求めよ、と記述していた。
ところが、地元紙などによると、今年5月中旬、この記述に批判が起きた。当然だろう。一般女性は身体男性の、女性用トイレ利用に理解を示せと言っているのに等しいのだから。このため、県は同月下旬、記述を「お互いに理解し配慮し合いましょう」と改めた。筆者には、これでも一般女性に身体男性の、女性用トイレ利用の理解を促している点で違和感は残るが、元の記述よりは良識に近づいたように思える。
だが、これに噛(か)みついたのが当事者団体。「マイノリティーがマジョリティーに配慮しなければいけない表現。トランスジェンダー差別を助長する」(岩手日報6月20日付)というのがその理屈で、性的少数者への差別解消に取り組む団体としての県の表彰を辞退してしまった。
いかに新藤が「穏やかな共生社会」を創るための理念法だと言っても、法の施行で、少なからぬ一般人は「全ての国民」の安心・安全に留意せよ、との留意条項を持ち出して自分たちの権利が圧迫される、と主張する。それに対して、当事者は「少数者差別を助長する」と反発する。この対立構造は明らかなのに、お互いの被害感情を刺激する内容を抱えた理解増進法を成立させた政治家の責任は重い。
(敬称略)
(森田清策)