サウジと国交樹立も
その一方で、イスラエルとアラブの盟主サウジアラビアとの国交樹立の可能性も指摘され始めている。
トランプ前米政権時からそうだが、アブラハム合意の米国の真の狙いはUAEなど3カ国の後ろに控えるサウジアラビアだ。バイデン政権は当初、中東和平には無関心と思われていたが、ここにきて、ブリンケン国務長官をサウジに派遣するなど、働き掛けを強化している。
トランプ前大統領は、サウジとの国交樹立合意も「もうすぐだった」と述べており、ここでもバイデン政権は前政権が敷いたレールの上を走ろうとしている。拙速に動けば、アフガニスタン撤収のような「大惨事」を招きかねない。
イスラエルの右派紙エルサレム・ポストは、サウジとの国交樹立を訴える論考を掲載した。イスラエルのシンクタンク、中東政治情報ネットワークのエリック・マンデル所長によると、「パレスチナの要求を最大限満たすまでイスラエルとの正常化を引き延ばすことは、サウジ経済の行き詰まりを意味し、地域の安定にもよくない」と前向きだ。かといって、サウジなどアラブ諸国が求める占領地から完全な撤収、周辺国に散らばるパレスチナ難民の帰還は「イスラエルにとって戦略的自殺行為」であり、「ユダヤ国家としての存続」にも関わる。
サウジの方が譲れと言っているように聞こえるが、サウジ側に急ぐ理由はとりあえずない。急ぎたいのは、バイデン政権だ。バイデン大統領としては、「来年大統領選が本格する前に片付けておきたい」(仏紙ルモンド)ということだろう。
パレスチナが障害に
イスラエルに昨年末、右派ネタニヤフ政権が発足、パレスチナ情勢は急速に悪化し、武装勢力、住民との衝突が絶えない。一方で、パレスチナ自治区内の経済は崩壊、住民の生活も悪化が進む。イスラエル、サウジ正常化でこのパレスチナ問題が障害となるのは必至だ。
(本田隆文)