判然とせぬ犯行動機
ただ、これで撃たれた被害者、説明に追われる陸自関係者らが一方的にメディアに映されるだけでなく、撃った犯人も顔と身の上を晒(さら)されることによって、等しく同じ場に出てきたことになり、衝撃的な事件の登場人物が読者の前に揃(そろ)った。
両誌ともに犯人の生い立ち、家族関係、学校時代、自衛隊への入隊動機などを詳しく書いている。身上情報は比較的簡単に入手できたのだろう。唯一の違いは文春には母親への言及がわずかにあったことだ。父親はメディアの取材に応じているが、母親の影はなかった。
文春は「一回り以上、歳の離れた四十代半ばの母親はほとんど家にいたという」とし、「“ネグレクト”の家庭に見えていました」と「同級生の保護者」の言葉を添えている。もっとも、それにしたって直接母親を取材できているわけではない。取材陣に突っ掛かる父親と、はきはき取材に答えている「兄弟の一人」はいるものの、「いるはず」の母親にもっと迫ることができれば見えてくるものもあるだろう。
とはいえ、両誌がいくら犯人の生い立ちや「暗夜行路」(文春)を明らかにしても、まだ取り調べの最中でもあり、犯人の動機がいまいち分からない。経歴から犯行に至る原因があるとは読めないだけに、余計にモヤモヤが残る。「Aの内面には、まだ分厚いカーテンがかかったままだ」と文春は言うが、その通りだ。
希望すれば入隊可能
一方で、なぜ自衛隊の射撃訓練でこの事件が起こってしまったのかだが、新潮は「そもそもどうして直杜のような“危険人物”が候補生に選ばれてしまったのか」を問うている。「陸自関係者」は「慢性的に自衛隊員の成り手が足りておらず、実際には希望すれば誰でも入隊できるというのが現実なんです」と答える。警察官の採用に際して行う身元調査は徹底しているのに、国防を担う自衛官のそれはそんなにゆるゆるなのかと驚く。
射撃訓練の手順、安全管理も今回の事件を通じて国民の目に触れた。「別の隊員を撃とうとしたり、あるいは実際に撃ったりした時にどうすべきか、という行動指針は自衛隊にありません(陸自関係者)」(新潮)というのが実情だという。今後自衛隊で追究されるべき課題だろう。
この事件、まだまだ週刊誌が追い掛けるべきものがある。(岩崎 哲)







