
AI像で写真家激怒
ドイツの芸術家が人工知能(AI)で作った画像で写真賞「ソニー・ワールド・フォトグラフィー・アワード」に応募し受賞が決まった。しかし、当の芸術家はAI画像だと明かした上で賞を辞退する騒ぎになっている。パリAFP時事が伝えた(世界日報4月23日付既報)。
それに対しニューズウィーク日本版(5月30日号)はこの芸術家・ボリス・エルダグセン(写真メディアアーティスト)に、その顛末(てんまつ)を語らせている。ボリス氏は応募の動機について「写真コンテストはAIを使った応募の可能性に気が付いているのだろうか…。(中略)AI画像について真剣に考える必要がある分野だと、問題提起をしたかった」と。
同コンテストのクリエーティブ部門で最優秀作品に選ばれた彼は、正式発表前に主催者側にそのことを話し、「写真にAIを使うべきかどうかについて、公開討論会を開くことも提案した」が、「私の作品がAI画像であるという事実に関して、主催者の立場も見解も説明はなく」「授賞式に出席してくれればうれしいと言われた」。
しかし「AI画像であることに写真家たちが激怒し」、エルダグセン氏は授賞式に出席したものの賞を辞退、「翌日、私の写真と名前は主催者のサイトから削除された。以来、彼らから連絡はない」という。
渦中の作品は、婦人の肩越しに、もう一人の女性が不安そうに前方をのぞき込んでいる写真。なるほど、心象風景の雰囲気を醸し出しており、専門家になら、実際の現場を写したのではなく、AI、それに類した機械類を通し作り出した画像だと、かなり容易に判別されそう。審査時には分明され、主催者も承知の上の授賞が、直後、周辺の反対の声の大きさに、賞を取り下げざるを得なかったのではないか。主催者側のコメントがないので分からない。ともかく、AIを使ったエルダグセン氏は次のように主張する。
「私は人間としてのアーティストが重要だと考えている」「私たちが指示することによってのみ、ある種の感情的な質を持ち、芸術として定義される画像を作り出すことができる」「そのプロセスにおいて人がどこまでクリエーティブになれるかは、複雑な問題だ。AIを嫌う人の多くは『あなたは何も創造していない』と言いたがる。/でも、私は自分がAIに取って代わられるとは恐れていない。全ての人間と同じように、私は唯一無二の組み合わせの存在だから」。つまり人間の志向性、心のありようこそが芸術作品の価値の大半を決定するのだと。