米と核協議グループ形成で合意
最近、やたらと「G8」という単語を韓国メディアで目にするようになった。尹錫悦政権になって日米との連携を強め、自由民主主義陣営に軸足を置き、米国への「国賓訪問」、主要7カ国首脳会議(広島G7サミット)への参加で韓国外交が一気に花開いた感があり、鼻息が荒いのだ。
こうした外交の成功で、尹政権が掲げる「グローバル中枢国家」へ迫りつつあるとの思いが「G7」に韓国を加えた「G8」という表現になっているのだろう。ただし、これはまだ国際社会の公認を受けておらず、8番目になろうとする国は列を成していて、いわば韓国の「早過ぎた祝宴」の気がしないでもない。
だが、韓国がそう勘違いするほど最近の外交には目覚ましいものがある。中央日報の総合月刊誌月刊中央(6月号)で梨花女子大教授の朴仁煇氏が「尹外交1年の損益評価」を書いている。
コロナ禍、ウクライナ戦争、世界的エネルギー危機と多難な1年となったが、前の文在寅政権で最悪となった対日関係の改善に取り組み、「韓米同盟70年」を迎えて米国との関係も整理されるなど、「損益」は明らかにプラスだ。
朴教授は、「尹大統領はひとまず適切に遂行したとみられる」とやや控えめの表現だが、文政権と比べれば「目を見張る」と言ってもいい成果を挙げている。
台湾統一と世界覇権の意思を隠さない中国、ミサイル実験を繰り返す北朝鮮との外交は文政権5年間で「与えてばかり」外交を展開したものの、何の成果も得られなかった。それどころか北朝鮮は近い将来「核保有国宣言」をしそうな勢いで、これを放置した文政権は北の核武装を援(たす)けたとの批判も免れない。対中外交も譲歩するばかりで見返りはなく、さらには高高度防衛ミサイル(THAAD)配備には「限韓令」で仕置きされるなど、散々な結果だった。
それから見ればわずか1年で対日対米関係を立て直しつつある尹政府の外交は十分に及第点がつく。
実際に朴教授は北朝鮮の核・ミサイルへの対処で米国と「ワシントン宣言」を行ったことを高評価している。米韓は「核協議グループ(NCG)」を形成することで合意。これで韓国は米国の拡大抑止を獲得するだけでなく、「対北抑止力維持のために(米政府に)韓国政府の意見、情報、判断、立場、政策が多様な段階で制度的に投入される」ことになった。
一部ではこれを韓国の「幻想」だと貶(おとし)める評価もある。「助けてくれなければ核武装するぞ」という現実味の薄いソウルの脅しにワシントンがグレードの低いカードを与えたようなものだという分析だ。
実際に米国が他国の意見を聞いて軍事作戦をすることはないにしても、弾道ミサイル搭載可能な米原潜や戦略資産の配備などを通じて、北朝鮮や中国への抑止になることは否定できない。
韓米日の外交安保軸を完成
さらに、同じく米国に拡大抑止を求めている日本に対し、尹大統領はNCGへの「参加を排除しない」と述べた。「アジア再均衡」と「インド太平洋戦略」を進めるバイデン米大統領にすれば「最も喜んだ部分だろう」と朴教授は言う。
過去の政権が「東アジアの中心国家」として、日米と中朝の間に立って「均衡外交」をするというレトリックを「20年続けてきた」が、朴教授は「初めから実現不可能に近い目標だった」と切り捨てた。尹大統領はその幻想をさっさと捨て去り、わずか1年で「韓米日外交安保軸を完成させた」わけだ。
NCGに日本が加わるかどうかについては評価が定まっていないが、北朝鮮のミサイル情報即時共有が合意されるなど、安保協力は進んでいる。あとは歴史問題など発火性の強い課題をどう管理していくかが課題となる。
「一喜一憂せず、過去の教訓を反面教師として韓国外交の多様な領域で積極的に利益を確保する」べきだと朴教授は主張する。「G8」を希求するなら、尹政権の外交方針が変わらないことを願う。
(岩崎 哲)