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陰謀論と旧統一教会叩き

「政府支配」との論理飛躍

共産も「賛成」の家庭支援条例

「潮」の論考で、秦正樹は近年湧き上がった新たな陰謀論の例として、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る陰謀論を挙げながら、その蔓延(まんえん)を防ぐためにメディア報道の在り方に苦言を呈している。

「当然ながら、同団体が行っていたことを擁護(ようご)するつもりは毛頭(もうとう)ない」と断りながらも、次のように指摘する。「旧統一教会の問題が起きて以降、ネットやテレビ・雑誌メディアなどはある程度仕方がないとしても、いくつかの全国紙の社説や記事ですら、同団体が政府の中枢(ちゅうすう)を牛耳(ぎゅうじ)っているという考え方を前提にしていなければ成り立たない議論が見受けられるのは非常に危うい」し、「長きにわたり日本の中枢を支配していたかのような報じ方は流石(さすが)に論理の飛躍(ひやく)であり、それこそ陰謀論な見方だ」。

秦は具体例には言及しなかったが、ここでは教団系の政治団体が推進したと言われる地方議会での「家庭教育支援条例」制定(10県と6市で制定=地方自治研究機構調べ、3月16日時点)を例にして、この問題を考えてみたい。たとえ地方議会で、同団体と“接点”のあった自民議員が推進して同条例が成立したからと言って、それだけで同党は同教団に牛耳られているとするのは陰謀論に近い発想である。

なぜなら、教団と関わりがあろうがなかろうが、自民党のほか他党の議員も賛成したことで条例は制定されているからだ。中には同条例を全会一致で可決した地方議会がかなり存在する。そのうち徳島、宮崎の両県議会では2016年、共産党議員(前者3人、後者2人)も賛成している。

日本共産党の機関紙「しんぶん赤旗」電子版(昨年9月21日付)は「自民党と統一協会が全面推進 各地で家庭教育支援条例」と見出しに掲げた記事を公開。「統一協会と自民党らがつくった条例を撤回させ、教育や保育の充実など家庭・子育て支援を行わせていきましょう」という弁護士のコメントを掲載し条例制定阻止を呼び掛けた。しかし、共産党議員が賛成した事実についての説明はない。

毎日新聞も3月4日付で、「『家庭教育条例』に教団の影」と見出しを打ち、伝統的な家族観で一致する教団系政治団体と地方議員の「接点が見えてきた」と書いた。しかし、同条例に共産党を含め、同団体との接点がない議員も多く賛成したことには触れていない。

ただ、推進の意見書を採択した愛知県一宮市議会の共産党市議の次のコメントを紹介した。「違和感はあったが反対する理由を見つけられなかった。十分に調べておらず反省したい」

これでも明らかなように、この条例が制定されたのは同団体による働き掛けがあったにせよ、成立したのは陰謀によるものではなく、反共を掲げる同団体と対立する共産党議員も反対できない内容の条例だっただけのことなのである。

自分たちの政治信条に都合の良い情報だけを並べ、また秦が指摘するように「特定の党派を攻撃することを目的とする」報道が陰謀論を蔓延させるのだろう。その陰謀論に影響されて発出したのが岸田政権の教団との「断絶宣言」であり、地方議会の「断絶決議」だったのではないか。だから秦は強調する。「予断(よだん)を排(はい)して物事や事実を見る姿勢を今一度冷静に見つめ直す必要があるように思う」と。

(敬称略)

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