不公平感募らす地元
この問題についてNHK「日曜討論」で発言したNPO「福島ダイオログ」理事長の安東量子氏は、「地元の人間にとっては不公平感、不遇感というところがある。事故で被害を受けているのに、その上なぜ被害を受けなければならないのか」と述べ、「科学的に正しいというものではないし、賠償で拭いきれるのではない。何らかの話し合いの仕組みを作る必要がある」と訴えた。
処理水そのもの以上に懸念されるのは風評被害だ。既に福島県産農産物が不遇な目に遭ってきただけに、「不公平感、不遇感」など被害感情を抱かない方がおかしい。出演した内堀雅雄福島県知事は、①処理水について漁業者にていねいに説明し信頼関係を構築する②国内外に対して科学的知見に基づいた正確な情報発信をする③漁業者への支援と万全の風評対策をする―ことを、国と東京電力に求めた。国際原子力機関(IAEA)が処理水は安全と認定するなど、科学的知見は発信されている。が、風評はイメージであり、なかなか手強い。
福島県沖の沿岸漁業の水揚げ高は昨年、サバ、イワシ、カツオなど5525㌧、34億9700万円で震災後最も多く、やっと震災前の2割程度まで回復した。そこへ処理水が放出されることに内堀氏は、「万全な風評対策が重要」と繰り返した。要は消費者の反応だろうが、渡辺博道復興相は「消費者のためにも安心感を訴えていきたい」「海外で輸入制限している所もある。こういう所に対応していきたい」と強調した。
処理水魚の試食後に
フジ「日曜報道」では、福島県で処理水を用いて養殖されたヒラメが紹介され、視察した自民党の細野豪志衆院議員は「食べさせてくれ」と要望したが、まだ許可が出ないのだという。
東日本大震災が起きて間もないころ、菅直人首相が風評被害の払拭のため福島県産のイチゴを試食したことがある。せめて処理水海洋放出は、この処理水養殖魚の試食が許可され政治家らが食するパフォーマンスがあってからでいいだろう。
(窪田伸雄)